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花占いのゆくえ 45

 薫の視線が細かく動いて、オレの頬の曲線とか、茶色に少し青味の入った瞳とか、顎の形とかを視線で撫でて行くのが分かる。これをすると、もう薫はオレの味方だ。  言葉を探して小さく呻いてはいたけれど、その内その呻きも出なくなって、小さく肩が落ちた。  ズルいやり方だとはわかってはいるけど、薫と言い争いはしたくない。  もう少し残って作業するのだと言うミナトに見送られて大学を出て、ライトもなく暗く沈んだバス停のベンチに腰を落ち着ける。時刻表通りの時間にバスが来ることはないらしいが、それでもバスの到着までは時間がありそうだった。 「薫は座らねぇの?」  慣れないことにクタクタで早々にベンチに腰を降ろしたオレとは違い、薫は傍らに立ったままこちらを見ない。 「────かおる?」  ぐっと息を飲む気配がして、そろそろと少し距離を空けて薫が腰を降ろす。  野外に放置されたベンチが軋んで小さな音を立てて……でもそれはすぐに山の木の葉擦れの音に消えてしまった。 「疲れた?機嫌悪い?」 「悪く ない」  山の上から夜景が見えるせいか、こちらを見ない薫の瞳に光がちらちらと映って、その透明感をオレはなんと表現すればいいのかわからなくてじぃっと視線をやる。 「  ──── どうして、ミナトさんにもマーキングするの 」  瞳だけじゃない、目の縁に盛り上がった雫にも光が反射して溢れて落ちると思った瞬間、それは瞬きにかき消えた。 「モデルとか、嫌なのにどうして引き受けたの  っなんでわざわざ、学校サボってまでくるの どうしてあっちの肩を持つの  っ」  絞り出された声に不穏を感じて、ぱっと薫の方に身を乗り出したけれど、その分薫は小さく身を引く。 「  ミナトさんのこと、特別なの?」  震える唇から出された言葉は同じように震えていて、山頂に吹く風に紛れて消えてしまいそうだ。 「 かおる」 「  っ 呼ばないでっ」  真珠が転がり落ちたのかと一瞬錯覚したけれど、それは薫の流した涙で。  しゃくりを上げながら耳を塞いで突っ伏してしまった姿に、どっと心臓が跳ねる。 「な なん  どうした?」 「なんでもないっ忘れて!」  伸ばした手を払われて、引っ込めることも薫を抱き締める事も出来なくておろおろと指先が彷徨う。

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