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花占いのゆくえ 44
面倒くささとこのあざといお願いの仕方と……天秤にかけてしまうと、αの本能なのか庇護欲が勝ってしまう。
「ね?」「ね?」と首を傾げて懇願する姿に、勝利の旗が上がってしまった。
「今回の、この絵限りって約束してもらえるなら 」
「喜蝶⁉」
背後でひっくり返るような声が名前を呼んで……
恐る恐る振り返ってみると薫が、ぱっと見は悲しそうに見えるけど、明らかに怒っている様子でこちらを睨んでいた。
「ぅ、あ、の 」
「海の学校も近いのに、そんな安請け合いしたら駄目だってっ」
「あっ学校は優先して!もちろん!」
ね?ね?と間に入られ、それならばやっぱり断る理由が無くなってしまう。
「それに、マーキングの件もあるしさ」
「でしょ?」と同意を求めつつ、ブレザーをきゅっとかき集めて匂いを嗅ぐミナトは……あざといなぁと思うけれど、可愛い。
αのツボをよくわかっていると言うかなんと言うか、思わずキュンとなる仕草だった。
「マ マーキング⁉︎」
「あ、うん。ミナトさんにもマーキングすることになって」
理由を言えば納得してくれるだろうけれど、人のバース性に関することをぺらぺら喋っていいなんて教育は受けてきていない。
なんと言えばいいのか考えてみたが、うまい言葉が見つからなかった。
「なっだっ だって!それは、同意が 」
「二人の合意だから心配しないで」
ぱぁっと顔を赤らめて言うミナトに、薫はぱちりと目を白黒させて言葉が出ないようだ。
「ぇ、 あ 」
「こうやって、匂いを貰えて嬉しい」
うっとりと言うミナトは、オレの匂いのせいで刺激されたのか、微かにいい匂いが漏れている。
αの匂いに刺激されてふにゃふにゃと笑うΩって言うのは、どうしてこんなに愛らしく見えるのか。今度病院に行った時にでも聞いてみようか?
「で、でも!だからって!まだ僕たち高校生だし、親に相談もなくそんなこと決めるの良くないと思う!」
大きな声でそう反論されて、オレの服に包まって幸せそうにしていたミナトは、急に夢から醒めたようにはっと表情を変える。
一瞬泣きそうになったミナトが痛々しそうだったし可哀想で、このまま黙っていれば良かったのについ言葉を挟んでしまった。
「服、預かってくれてありがとう、預けちゃってたから匂い移っちゃったね」
「え⁉ あ!うぅん、預かってただけだし、それはしょうがないよ」
二人ともなかなかの演技の才能があるようで、棒読みではなかったと思う。
けれどそんなことで薫は誤魔化されてはくれないらしく、じっとりと睨みつけられて肝が冷える。
「そんな言い訳ばっかり 」
「だってこの部屋に服を置いたら絶対埃まみれになるし!こうやってミナトさんに渡しておけば万事解決だろ?持ち物から匂いが移っちゃったら……仕方のないことだし」
未成年によるマーキングをただの事故と押し切り、薫の方をじっと見つめた。
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