393 / 665

花占いのゆくえ 48

 なのに…… 「ダメ 裏切れない、  ダメなの  」  譫言のように唇の隙間から言葉が漏れる。  忌々しい、  腹の立つ、  あんな男に、 「 ────ダメじゃない、薫はオレのモノだから」  強い言葉でそう言うと、ひくん と薫の肩が跳ねて後ろに仰け反った。  勢いで後ろに倒れてしまわないようにとっさに手を伸ばしたけれど、二人の間に距離が出来てしまって、それがオレと薫の間に立ちふさがるあの男のように思えて……  苛立ちのままに薫を引き寄せて、ぐずる薫を抑え込むようにして抱き締めた。 「オレの方が強く薫を好きだし!オレの方が薫をわかってるし!オレの方が薫を大事にできる!」  勢いのままにまたキスをすると、かちん と歯と歯が当たって小さな音を立てるから、薫はますます怯えたように身を縮めてしまう。  それを宥める方法を思いつかなくて、甘えるように薫の肩に頬を摺り寄せる。 「オレのが絶対、薫を幸せにできるから」  サブリミナル効果のようにこうやって言い続けたら、薫はオレの方に戻ってきてくれるだろうか? 「  き、ちょう、ごめ  」  耳元で掠れて出された声は苦しさに喘ぐようだった。 「ダメ、 ダメなの  」 「なんで⁉」  ちり とイラつきのままに怒鳴り返すと、叱られた小さな子供のような表情の薫が、言葉を探しあぐねて赤い唇を小さく震わせている。 「オレのこと、好きじゃないの⁉オレだって!薫のこと大好きだしっ一生傍にいたいし!薫のこと噛んで  っ「違う!」  遮られて、「番にしたい」の言葉は消えた。  一番言いたかった言葉が消えて、波のようにも聞こえる木々の揺れる音が煩くて、耳を塞いでしまいたくなる。 「 ──── 違うの、喜蝶、そうじゃない、ダメなの、   なんか、この辺が、この辺で……忠尚さんが、番だよって」  幾筋もの涙の痕の残る頬を拭ってから、薫は自分の胸をゆっくりと指さす。  荒く、上下する胸を指すけれど、心臓ではなく、きっと心だ。  なぜか、医者の言った『お互いに呼び合う』の言葉を思い出して、チリチリと焼け焦げるような胸の痛みに息を飲む。 「ずっと、  この人だよって、ここが言ってる の」  ひ ひ とひきつけを起こすんじゃないかと思わせるような呼吸を繰り返し、苦し気に顔を歪めて薫はぐっと奥歯を噛み締める。  苦痛の表情に顔を歪ませて、それでもゆっくりと、薫はオレを見てくれた。 「   ────好きなんだよ、喜蝶 すごく、まだずっと好き」

ともだちにシェアしよう!