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花占いのゆくえ 64
「そうなると、もう、ちょっと モデルとか、いろいろ無理です」
「そん それはっ」
「できたとしても、ヒートが明けてからじゃないと」
「それ、だと間に合わなくて……」
そんな事情、知ったことじゃない。
芸術家の作品への思いとか情熱とかで発情に巻き込まれたなんて、たまったもんじゃない。
「待って!ミナトさんだってワザとじゃないし 」
そう言ってオレを宥めようとした薫の手にも血がついているのを見て、抑制剤の効果だけではない血の気の下がりを感じて飛び上がった。
自分の腕の傷はわかる、堪えようとしてだろう。
オレは薫にまで怪我をさせてしまったのか⁉
「血 薫!血が 」
白い肌のせいか余計に赤く見えるそれは間違いなく歯型だ。
血相を変えて腕を取るオレから逃げるように身を引いて、薫はへたくそな作り笑いで笑って見せた。
「これは、なんでもないっ」
「なんでもなくない!オレ 薫に傷……っ」
ぐっと拳を握り込んで、衝動に任せて暴れたくなったのを堪えるけれど、ふつふつとした怒りで怒鳴り散らしそうだった。
「……ごめん それは、薬を入れてくれた時に……」
小さく身を縮めて震えて言うミナトに、寛大な気持ちで対応する事が出来ない。
「────っ」
オレと違って白くて薄い皮膚は怪我の痕が残りやすくて。
こんな目立つ場所に傷をつけさせてしまった事実に、息が詰まりそうだ。
「薬を飲ませる時に、そう言うこともあるって習いましたし、気にしな っ」
オレが腕を掴むから薫の言葉が途切れて、不自然な沈黙が部屋の中に落ちた。
「 も、ここには来ない 」
掴んだ薫の手が震えた気がしたのは、怒りのせいか威嚇フェロモンが出たせいだ。
Ω寄りの二人はフェロモンを感じやすいせいか、さっと顔色が変わる。
「きちょ 」
「喜蝶くんっ謝るから!他にも薬を処方してもらって……」
力を込めてミナトを睨みつけた瞬間、薫がカクンと膝から崩れ落ちて怯える表情をこちらに向けた。
傍らの薫でさえ怯えるのだから、直接αの怒りを向けられたミナトは顔色を無くしてへたり込み、血の気のない唇を震わせて何事かを言おうとしている。
「 っ、あんたの作品なんかっ知ったこっちゃない!薫を危険に晒して、薫に怪我をさせたことを許せるほどオレは寛大じゃない!」
カタカタと細い肩が揺れる。
「あんたなんか、どうでもいい」
自分自身の声が人を傷つけるのを初めて感じたかもしれない。
「薫だけが大事だ」
はっとしたように大きく目を見開いたミナトが、言葉の出ない口を開きかけたのを見て薫を抱き上げる。
腰が抜けたまま呆然としている薫はされるがままで、オレは振り返りもせずにその部屋を出て行った。
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