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花占いのゆくえ 65

 α用抑制剤の所持は原則一本のみで、使ったなら速やかに次を貰いに行かなくてはならない。  悪用されるのを防ぐためらしく、新しい物を貰うためには使用済みの注射器を持ち込まなければいけない決まりだった。  使用済みの注射器を提出して、新しくα用抑制剤を貰いに来たと言うと、若い方の瀬能と言う医者が「ん?」と顔をしかめる。 「ついこの間、新しい物を処方したんですね」  そう呟いてから医者は看護師にガーゼと包帯を持ってくるように指示し、オレに腕を捲るように言ってきた。 「……」 「腕に噛み傷があるのでは?」 「…………はい」  そう答えて渋々と袖を捲る。  自分でつけたとは言え歯型が腕に並んでいる光景は気持ちのいいものではなくて、顔をしかめて視線を逸らした。 「これは、名誉の防御創と言われるもので、オメガを噛みたい欲求を堪える際にできる傷です。よく我慢しましたね」 「っ  あ、ありがとうございます」 「お相手のオメガの方に怪我はありませんでしたか?」  怪我 を、させただろうか?  してたかもしれないし、してないかもしれない。そこまであの時は頭が回らないかったし、ミナトに傷はなさそうに見えた。 「はい」 「幸いです。オメガの方に何かあると、程度によってはタグに記録されることになりますから気を付けてくださいね」  医者のこの言葉がやんわりとオブラートに包まれた言葉なのはわかる。 「あ、えっと……オメガじゃなくて、ベータだったんですけど」 「え?ああ、オメガダッシュの方ですね」  どうでもいい情報だったかと、気まずい気持ちで俯く。 「ベータのヒートも、きついんですね」 「そう、ですね」  パソコンに何かを打ち込む手を止めて、医者はやや考え込むように視線を逸らす。 「近年、ベータのオメガ化が進んでいますので、侮れなくなっては来ていると思います」  前回の時に医者が言っていた『バース性の境目が曖昧になってきている』の言葉を思い出し、こう言うことを指しているのかと心の中で頷いた。  それと同時に、薫の秘密がふと頭を過ぎる。 「   じゃあ、何かあった時、オメガと同じ結果になるベータも、いるんですか?」  はっきりと言うと笑われるかもしれないと、出来る限りオブラートに言葉を包んで問いかけてみた。オレの言葉を正しく理解してくれたのか医者ははっとした顔をして、この言葉がただの好奇心から出たものなのかそうでないのか探ろうとしているかのように、眉をひそめた。 「…………」 「   そう、です」  医者が考えを巡らせる時間がこんなにも長く感じるものだとは思わず、息を詰めていたせいか掌が汗で濡れている。

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