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落ち穂拾い的な 六華

 ぷくーっと膨れた頬を銀花に突かれて、ぷしゅ と空気が抜けた。  しかたがないからまた膨らませると、今度は義が突っついてきて……煩わしさに邪険に振り払うと、大きな手が俺の頭をくしゃくしゃと撫で繰り回す。 「ちょ やめてよ 」 「皆、お前のことを心配してるんだから、素っ気なくすんな」  見た目は粗い感じなのに、仁は何かと細やかに世話焼きだ。 「わかってるもん」  わかってるけど、どうしようもない。  薫に、  喜蝶に、  二人とも突然学校に来なくなったきりで、電話しても何しても連絡が取れない状態で……  いつもならプリントだとか、届け物だとか、いろいろ持っていけと学校から言われるのになぜだかそれもない。家の前まで行っても人の気配もないし。  『la fluorite』にも行ってみたけれど、臨時休業の貼り紙が出されていて誰もいなくて。  それに、もともと静まり返っていた喜蝶の家だけれど、雰囲気が違った。  ……あれは、空き家の持つ空気だ。 「    」  薫が来てないと聞いて飛び出して行った姿を見たのが最後で……  あの時、なんだろうって思って追いかければよかったのかな?  ちょっと怒ってるんだけど って態度を取らなかったら良かったのかな?  午後の授業もあるし なんて思わずに、ついて行けば今日も一緒に学校に行けたのかな?  自分の行動に後悔する時は、いつだって取り返しのつかない時だ。 「あーあ。気まずくなるようなこと言わなきゃよかった」 「うん?お前がか?」 「なんだよ、俺だって主張くらいあるんだよ」 「俺達にはな?」  そう言うと仁は猫でも担ぎ上げるよう俺を持ち上げて、そのままソファーに座ってしまった。俺は仁の膝の上で……銀花の定位置にいるのは、なんだか名実ともに座りが悪い。 「六華は内弁慶なとこあるから」  ふふふ と意味ありげな笑いを零しながら、義がその隣に腰を降ろして引っ付いてきた。 「それっ友達少ないって言いたいの?」 「違う違う。少ないけど」 「どっちなんだよ!」  むぅっと頬を膨らませると、逆側に腰を降ろして引っ付いてきた銀花がそれを突っついてきた。 「りっかは、他の人には遠慮しいだってことだよぉ」 「お前がしっかり意見を言えるってことはそれだけ仲がよかったんだろ。きっとすぐに学校に来るようになるって」 「海の学校に間に合わなかったら、先生に頼んで俺達の班に入れるようにしてあげるから」 「 って言うか、りっか手伝いに来て。このメンバーじゃカレー作れないよ……」  三人に頬ずりされて……  俺を慰めてるんじゃなくて、最後のが本題でしょ! 「じゃがいもも人参も玉ねぎも生でいける」 「カレーじゃない……」 「ルーかじって水飲めばいいよ」 「ご飯ない!」 「生米で大丈夫」 「肉が余ってる!」 「頭に刺して踊れば?」  「「「おぉ!」」」と返事が返るから、本気にしてないかちょっと心配になった。 「わかったよ  ……当日、ちゃんと見に行ってあげるよ」  そう言うとにっこにこの三人の顔が迫ってきて、頬ずりされて、もみくちゃにされて……  なんだかんだ、ちょっと元気出た。 END.

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