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落ち穂拾い的な 治験
歪な形の建物の中を、ぐるぐると迷路のように案内されて草臥れてきた頃、一つの扉の前で案内係が立ち止まる。
他の扉と見分けがつかなくて、案内係の人は何を目印として俺をここまで案内してくれたのか、不思議だった。
入った部屋には二人の先客がいて、親しげに会話をしているところで、会話を遮ってしまった気まずさを感じながら会釈すると、瀬能先生が追いかけるように入ってきて二人を紹介してくれる。
右側のかなり細身の黒髪の男性の方を向いて、
「この治験に参加してくれている、鷲見さん」
それから左側の柔らかな雰囲気を持ったサラリーマン風の男性を指して、
「御厨さんです、お二人に新しい仲間が増えましたよ」
頭を下げてくれる二人に倣って俺も慌てて頭を下げる。
俺よりも年上……親 くらい歳の差があるのかもしれない、二人ともはっきりとΩとわかる、雰囲気の華やかさがあった。
「よろしくお願いします」
「そんな不安そうな顔をしなくても、頭から齧られたりしないよ」
穏やかな笑みを向けられて、瀬能先生に小さく頷き返す。
瀬能先生は事件の真相を告げない俺に、根気強く寄り添い続けてくれて、そして意に沿わない番の歯型ならば消せる可能性に賭けてみないかと声を掛けてくれた。
……この首を誰が噛んだのかは……俺にはその時の記憶がなくてわからない。
一つだけ確かなのは、俺を忠尚さんの傍に繋ぎ止めるためにすべての泥を被って尽力した喜蝶が噛んだのではないと言うことだけ。
一番、俺を噛みたいと、番になりたいと言ってくれていた喜蝶だけが、犯人からもっとも遠い位置にいるなんて皮肉すぎる。
「じゃあ、空いているところに座って」
瀬能先生は座るように促してから、白板を前にしっかりとした声でこの集まりの目的を告げた。
「では、この度は研究にご協力のためにお集まりくださってありがとうございます、この研究の内容は『番の絆を断ち切る』を目標としております、生命の営みの一環として長く続いたこのシステムに立ち向かうには、多大な時間と数多の試行錯誤が必要となってくるでしょうが、根気強く向かっていきたいと言う所存であります 」
首の歯型を消す……
そんなことが可能なのだろうか?
消えることがないから番の、魂の絆の証では?
なんだか神をも恐れぬ研究のような気がして……心がひやりとした。
「 項の傷について、全ての人が喜んでいるわけではありません。不慮の事故だったり、意に沿わないものだったり、パートナーとの死別、心変わり、そう言った際に枷となります。それを解消することができたなら、オメガ達の負担はどれほど軽くなるか 」
不慮の……
意に沿わない……
首の真後ろについた傷、これを消すことが出来たなら……
俺はすべてを忠尚さんにきちんと話して、喜蝶に会いに行きたいと思った。
END.
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