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Dog eat Dog 23
そこに思い至った瞬間、何かが背筋をねっとりと舐めるような嫌な悪寒を感じる。
駆け出そうとした足が浮いて、視界がぶれた。
「 ──── っ!」
床に投げ飛ばされた衝撃で呼吸が止まる。背中を満遍なく打ち付けたせいか、吸い込んだ息が吐き切ることが出来なくて、喉の奥がひしゃげたような奇妙な音を立てて鳴る。
「 は 」
声を上げようとしたけれどうまくいかなくてもごもごとしている間に押さえられ、体は投げ飛ばされたせいで痛んでうまく動かせなかい。どっしりと体の上に覆い被さってくるのは、先程までの性交で精液と汗にまみれた男だった。
逆光になった中田は表情が読めなくて、床に縫い付けられてわずかでも動ける気がしない。
それでも逃げようと試みてみるも、ガチャン と胸の辺りで金属質な音がして、冷たい異質な感触と重さが手首に圧し掛かかって叶わなかった。
「あ な、なに、これ」
カチカチカチ……と足首の方でも金属の音がして、手首と同じように冷たい感触が肌を撫でた。
暗い室内用の明かりを受けて鋭利に光を反射させるそれは、オレがα達を拘束するために使った玩具とは雲泥の差のあるものだったからだ。
勢いをつけて腕を振るっても、本物のように見えるその手錠はびくともしない。
「なんだ、これ」
震えて、でも怖くて、でも……視界の外でそれが動くのはもっと怖くて。
仕方なくそろり……と視線を上げると、汗で汚れた眼鏡を曇らせた中田がこちらを見下ろして笑っている。
「 やぁっと、薬が切れてきたぜ 」
漏らされた一言は中田のイメージからは程遠い蓮っ葉な感じだ。
オレを拘束したからか中田はやれやれと起き上がって、足に絡んでいたしっかりとした生地で出来たスラックスを床へと投げ捨てる。男の筋肉質な太い足は、その一蹴りだけでオレに致命傷を与える事が出来るかもしれない。
どうして?
もうしばらくは意識朦朧としているはずなのに。
気づけば……歯がカチン と鳴っていた。
さっきまでのセックスで体は温まっていたはずなのに、急速に心臓の辺りからひんやりとしてきて、震え出しそうな悪寒さえ感じる。
「じゃあー……ふみ、さん。攻守交替と行きましょうか」
問いかけなんかじゃなかった。
これはもう、決定事項だ。
尻を空気に触れさせられて落ち着かなかった。
柔らかな肌触りの良い生地が腰の周りにもたついて、オレの抵抗を更に意味のないものにする。もぞもぞと芋虫のように床を這って逃げようとすると、剥き身の尻をペチンと叩かれて飛び上がった。
「な な、」
何をするんだ の言葉の答えは自分自身で解決する事が出来た、「攻守交替」と中田は言ったじゃないか!
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