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Dog eat Dog 30
「あんたのココ、俺だけのもんなんだな?」
「っ ぷはっ!ちが ソコは、 オレの 」
誰がなんと言おうと、オレの体はオレのだ。
「違う! 俺の、 」
犬の呼吸音に似ていると、大沢に抱え上げられてその呼吸音を間近で聞いて思った。
飢えて、獲物を追い詰めて、食らおうとする、そんな興奮を抑えきれていない犬の息の仕方だ。
本格的に中てられている!
ぞっと体を震わせたオレをベッドの上へと放り出し、もどかし気に足を開かせようとしてくるが、大沢自身の手で嵌められた手錠がそれを邪魔して、足首の辺りでガチャガチャと金属音がしただけだった。
じれったそうに、忌々しそうに「鍵 鍵 」と呻くも、それすら時間が惜しくなったのか、白い歯を銀色の鎖へ立てて闇雲に引っ張り出す。
「や、や やめっ 」
そんなことをしても、人の歯が人を拘束するために作られた道具に敵わないのは分かりきっていることだ、そんなことを大沢がわからないはずはないと知っているのに、目の前の男はそれを引き千切ろうと必死だった。
「歯っ 歯が欠ける! 」
自分の歯ではないし、大沢の歯が欠けようが折れようがざまぁとしか思わなかったが、必死に食らいつくその姿に……ダメだと思ってしまった、この男の歯が欠けては、ダメだ と。
────歯が欠けては、噛めなくなる と。
ぺちぺちと顔を叩き、歯の隙間に指をこじ入れて鎖を引き抜いてやると、そこで少しは正気に戻ったのか大沢はこめかみを押さえて低く唸る。
「は はぁ、 薬、抑制剤……」
放り出してあった小さなバッグに、念のためにそれだけはきちんと入れてあった。緊急用の舌下薬……わざわざ発情薬を使った発情にどこまで効果があるのかは疑わしかったが、何もしないよりは効果があるはず。
熱に突き崩されそうな理性を総動員して、ベッドから転がるように降りて床に落ちているバッグを探す、手足は手錠で拘束されているとは言え、胸の前で嵌められているお陰でバランスを崩すことはなかった。
よたよたとバッグに駆け寄って伸ばそうとした手が空を切る。
「 あ゛? 」
ごとん と顎を強かに床に打ち付けられて、あとわずかで届きそうだったバッグへの手が藻掻いて床を掻く。
「 ぁ゛ っ」
「鍵 見つけた 」
囁く声がすぐ耳の後ろでしたのと、大きな体に押さえつけられたのがほぼ同時だった。
自分よりはるかに大きい熱量に体が怯んで動かないのに、心を裏切るように腹の奥底がじくりと焦れる。
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