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Dog eat Dog 34

 何を言い訳しても、身元も勤め先も知られてる段階で、腹を括るしかなかった。 「あ、あ、すみません、所長に見られたくなくて」  おどおどとその男はオレへと手を伸ばし、しっかりと巻き込んだシーツを緩める。体の周りの拘束がなくなって、ちょっと息がしやすくなった気がした。  後は、 「逃げも隠れもしないから、これも」 「あっそ、でも、あ、 すみません……鍵、なくて」 「はぁぁ⁉︎」 「す すみません、どっかやっちゃったみたいで」  ガチ と音がして、その男に飛びかかろうとしたのに出来なくて倒れ込む、湿気ったシーツに阻まれて、胸ぐらを掴むことすらできない。  苛立ちでギリギリと歯を鳴らすオレに心底申し訳なさそう謝りながら、男は真っ赤になりながらシーツを掛け直した。 「見えちゃうので  」  照れ照れ と音が聞こえてきそうなほど恥ずかしがりながら、男はそれを終わらせてから隣に腰かけてくる。  近ぇ……  ぴったりと寄り添われた苛つきのお陰か、いい加減頭がはっきりしてきたせいか、この状況がますます訳のわからないものだと言うことがよく理解できた。 「…………で?あんたは何者なわけ?名前は?」  ぱぁぁと顔を明るくして男はにっこりと微笑んで身を乗り出してくる。  だから、近ぇ……  αらしい整った顔に間近に迫られると……ああ、踏みつけてやりたい。 「狩探偵事務所のバイト、時宝尊臣(じほう たかおみ)です!」 「……依頼主は?」 「えっと、それは守秘義務なんですけど、『次に出勤したら僕の部屋に顔を出してね』って伝言を預かってます!」  あ、こいつ残念な子だ。  ぐぐぐ と腕に力を入れて手錠を左右に引っ張ってみるが、引き千切れるほど柔な鎖じゃないしそんな腕力もない。第一擦れすぎて皮膚がすり切れて、そんな暴挙に耐え切れそうになかった。 「ふみさ 、えっと、いつか  じゃなくて、え「四月一日っ!」  重ねるようにして言ってやると、「あ!そうだった!」と言う表情をしてにっこりと微笑む。 「まどかさん!」 「知ってるんじゃねぇか!」 「お風呂入りましょう!」 「はぁ⁉」 「最後、気絶する時びしゃびしゃにしてたから」  恥ずかしそうに言ってくれるが、一番恥ずかしいのはオレだ!つまりこのシーツの湿気は…… 「まどかさんの潮吹き、すごかったですね」  赤い顔で言われて、兎にも角にもオレは時宝に拳を振り下ろすことしかできなかった。  きいぃ と椅子を軋ませて背もたれに体重を預ける老人に、そのままひっくり返ってくたばってしまえ……と思ったのは内緒だ。  ご丁寧に研究所の個人個室に呼んでくれたのは配慮だろうけど、そんなことでチャラにすることができないくらいの苛立ちをどうすればいいのか分からなかった。 「  まぁ、いいお灸になったかな?」  そう言って胡散臭そうな人の良い笑顔を見せる瀬能先生に、ぐっと言葉が詰まりそうになったがそう言う訳にもいかない。やっぱり整えることのできない毛布のような毛艶の頭を下げて、謝罪の言葉を口にする。

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