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落ち穂拾い的な 頑張れ!五十嵐くん!
青いファイルを頭上に掲げて、後輩が自慢気に笑顔を振りまいて来る。
「いーがらしせんぱーい!取ってきましたよ!青い部屋のファイル」
「お。迷わなかったか?」
「赤の部屋に行きましたけども、なんとか」
「全然別方向じゃん」
「それ、どうするんですか?」
「ああ。これ?」
そう言って時計を見ると、おやつの時間だ。
ちらりと視線を動かすと、昼前から変わらない姿勢で四月一日がじっと画面を見ている。心配になるほどの猫背と、瞬きのしない目を見ていると、そう言う人形じゃないのかと思えてくるが、時折思い出したかのように指が数字を追いかけることで、生きている人間なんだとわかる。
ふわふわとした小型犬のような髪と、ちょっと拗ねたように周りを見る顔立ちは独特だけれど……まぁ、俺は……
「おい」
強めに言わないとこいつは聞いていない。
はっとなった隙を見逃さずにファイルを投げ込んだ。渋々、何か言いたそうなのをあえて無視してやらないと、こいつはファイルを突っ返してまた仕事に戻ってしまう。
食事に頓着がなくて、細い手首なんか握ったら折れてしまいそうだから、きちんと食事を摂って休憩をはさむべきだ。何度もそれを言っているのに、バックグラウンドの音楽か風の音か何かと思われているようだった。
「それ、片付けてきて」
そう言うと四月一日はちょっと何か言いたげにしたけれど、結局何も言わずに「ん……」と小さく呻いてファイルを持って立ち上がる。
それを持って行くついでにちゃんと昼食を摂れよ……と、願いながら四月一日の背中を見送ると、さっきファイルを取ってこさせた後輩が拗ねたような表情でとっとっとっと近寄ってきた。
「えー……さっきやっと取ってきたのに……」
「だから返すんだろ」
「先輩、好きな子はイジメるタイプですか?」
「ちがっ」と声を荒げて否定すると、後輩はケラケラと面白そうに笑う。
「だって!こうでもしないと飯くわねぇし!休憩しねぇし!」
「会話もないし?」
「か 会話したいわけじゃ……」
ないわけじゃないけど、なくはない。
……んだけど、そんな下心とかそう言うのではなくて……そう言うのでは全くないんだけど……ないんだが……
唸って後輩を睨んでやると、叱られた悪戯っ子のように肩を竦めて見せた。
END.
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