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落ち穂拾い的な こぼれ話
「まーどかさんの、包茎」
「なんだよ」
「皮っ被りの~可愛い~ち ぐっ」
傍らでヘラヘラ笑っている時宝の顔を押し退けて、弄り回されていた股間を奪い返す。
「基本、ここはバリエーションに富んでるのが普通なんだよ!仮だからいいのっ」
「ええー?そう言うもん?」
けらけらと笑う時宝を見ていると、大沢や中田の際に感じた大人っ気は一切なくて、どちらかと言えば幼く感じるほどだった。
大沢は、真面目なリーマン風だった。
中田は、気障ったらしいボンボン風だった。
セックスの最中はー……少し、乱暴な、イメージを受ける。
今は……
「怒った?まどかしゃん?怒った?だって、可愛いんだもん」
ほっぺを赤くして、こちらにじゃれ付いて来る姿は子犬のようにも見える。
「…………」
部屋で寝転がっている今の姿では不釣り合いに見えるような吊るしではないスーツも、中田の時にはしっかりと着こなしていた。
素を知ればどれも違和感があり、素を知らなければ違和感がなさすぎるほどない。
「 な、なぁ、お前って……」
尋ね方がうまく出て来ず、言葉を探している間にもしや今見ている時宝自身も嘘じゃないのかと嫌な考えが過って……
「なーにー?」
「 あ、や、全然、時宝のこと知らないなって……」
一緒の部屋に住んでいるのに今更ながらに何も知らないことに気付くなんて、よっぽどこの男に興味がないか……そんなことどうでもいいくらい……
「マジで⁉やっと俺のこと聞いてくれるの⁉」
「べ、別に言いたくないなら ぶっ」
どんっとタックルをかまされて、その勢いのままに床に押し倒された。
痛い と言うほどじゃないけど、衝撃に呻いているオレに、きらっきらとした満面の笑みが飛び込んでくる。
「時宝尊臣!身長186!体重は秘密!アルファ男型!年齢はじゅ むがっ「待て、それは聞いちゃいけない気がした」
勢いよく時宝の口を塞いで、頷くまでじっと両手でその口が動かないように押さえつけた。
「んんっ 形態模写が得意です!ダンスも好きだけど、演技が好きなので舞台がやりたいでっす!どんな役でも体当たりで頑張りまっす!」
「…………舞台?」
「舞台俳優志望でっす」
にこにこっといい笑顔は、つい釣られてこちらも笑顔になってしまう魅力がある。
「映画とかも好きだよ?」
あざとく科を作って見せれば、先程までの無邪気そうなワンコはいない。
オレが目を白黒させるのが面白かったのか、時宝はさっと髪を撫でつけてからぎゅっと目を閉じた。オレからすればただの瞬きだったのに、時宝にとってはそうではないんだろう、ふっと纏った空気が動いたように感じて息を詰めて見ていると、次にこちらに視線を送ってきたのは時宝ではなく大沢だった。
「こんにちは、まどかさん」
「んっ ひ 」
大人びた優しく口角の上がる笑みを、時宝はしない。
これは、──大沢だ。
「え、ちょ、 」
「いきなり俺で驚いた?それとも、大沢よりも中田の方が好きかな?」
穏やかな問いかけと、纏う紳士な空気が揺れる。
一瞬の深い瞬きは、きっとスイッチの切り替えのためのルーティーンだ。
「しがないサラリーマンより、俺の方がいいんだろ?素直に俺がいいって言いなよ」
少し気に障るような物言いは、もう大沢の物じゃない。
突然のことに戸惑って「あ」とか「う」とか言っているうちに、中田の雰囲気も消えていつものじゃれ付いて来るような時宝の雰囲気がひょっこり顔を出して、オレに褒めて褒めてとねだっている。
「役者 なのか」
「卵だけどね、でも、こうやって演じるのは好きだよ」
先程までの変化の欠片も見せないで、時宝はへへへと笑ってオレに抱き着く。
「いつか、俺主演の舞台をするから、その時は絶対絶対見に来てね!真ん中の一番いい席をまどかさんのために取っておくから!」
ぐりぐりっと頭を擦りつけながら無邪気に言う時宝の頭を撫でつつ……これ、そう言いながら大成せずに終わるフラグだな と思ったり思わなかったりした。
END.
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