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かげらの子 8

「 ぁ、っ  っ  」  支えられているとは言え坂道のせいか、どうしても左右に体が振れた際にはつい足に力を入れてしまって、呻くような声が漏れる。その度に留夫は申し訳なさそうに頭を下げて、「もう少しですから」と捨喜太郎を励ましてくれた。  さすがにこの地で生きている者だからか、留夫は捨喜太郎に肩を貸しても息も切らさずにぐいぐいと力強く山道を進んで行く。  腕を掴んでいる掌は固く、肩は隆々としていて、またその地面をしっかりと捉える両足も逞しかった。身長と態度のせいで侮られやすいのではないのかと捨喜太郎が思ってしまう程、その体躯にその人懐っこい笑顔は釣り合っていないように見えた。  自分の日に焼けて赤くなってしまった腕と、留夫の健康的に焼けた肌を交互に見やって、微かな劣等感を抱いたのは言うまでもない事だった。  コトコト   カコカコ  コトコト   カコカコ  歩みを進めるにつれて耳に入り出した不思議な音に、留夫の促しのままに進めていた足が止まる。  コトコト   カコカコ  甲高く、そして柔らかい音色だ。  その聞きなれない音に、捨喜太郎は怪訝な顔をしていたのだろう、留夫に痛むのかと心配の声を掛けられて慌てて首を振る羽目になった。 「この音は?」 「ああ、雀避けです。ご覧の通りここはそう広く田んぼを取る事が出来ないので、雀のお味見でも笑っていられないんですよ」  コトコト   カコカコ  村の中、中心に近づくにつれてその音は数と大きさを増していく。  よく見れば村のそこここに木片を絡めた縄が張られ、それが風に揺れてコトコト カコカコ とうら寂し気な音を響かせていた。 「まぁしかし、良かったですねぇ、あんなとこに座り込んで」 「や、 全くです、見つけてもらえなかったら干からびている所でした」 「いやいや、それではなく、この村の周りは蛇が出るんですよ」  留夫からしてみれば慣れ親しんでいるからか、日常の話なのだろうが、残念な事に捨喜太郎の住む街では蛇なぞついぞ見掛けない。  思わず顔色を失った捨喜太郎に、留夫はわははと豪快に笑いを零すと、村には居ないのでご安心を と告げた。  だがいないと言われても、ここまで自然と同化しているような土地なのだから、蛇なんて気ままに出入り自由の筈だ と、捨喜太郎は口を引き結ぶ。 「毒を持つものもおりますので、外へ出る際はお気をつけて」 「あ ああ」 「まぁ全てが全て恐いものではございませんので、どうかどうか悪い事はされませんよう」  言葉の奥にひやりと肝が冷えると言うか、背筋をぞくりとさせるものを感じ取って捨喜太郎は呻くように頷いて見せる。

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