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かげらの子 34

 滑らかな、肌。  濡れた、黒髪。  赤みの戻った……唇。  どちらともなくそれを強請っていた。  ちょん と触れ合った鼻先で促すようにちょいちょいと触れやすい位置に誘導してやると、色を取り戻しつつある薄い宇賀の唇が僅かだけ開いて捨喜太郎を待っている。  清涼感のある、匂いがする……  ただ唇の先端を触れ合わせただけなのに、そこから生まれる熱の量に眩暈がする程だった。 「 宇賀  」  呼んでやると、ふぅと宇賀は笑って見せる。 「さきたろ、名前呼んで  呼んで 」 「宇賀 」  まだ体温の戻ってこない耳たぶの傍で、その名前が大事だから誰にも聞こえないように小さく呼ぶ。  そうすると宇賀はぱちりと瞬きをし、人間らしい表情を捨喜太郎に見せるのだった。  体温を戻す為……と言う大義名分で抱き合った筈だ、けれど二人の体温はもうとっくに元に戻っていた。宇賀の唇は赤く鮮やかだったし、捨喜太郎の頬にも赤みが差している。  緊急時の対応としては、もうすでに意味はない。  けれど離れようとどちらからも言えないせいで、触れ合った肌の間には温もりではなく熱が生まれ、このままではのっぴきならない状況になってしまうのではないだろうかと思わせた。  けれど……けれど、お互いがお互いとの体に隙間が生まれると言う事実を見据える勇気は二人にはなく。  じりじりとお互いの熱が高まるのを感じながらも動き出せずにいた。 「   宇賀 」  何度目の呼びかけなのか捨喜太郎は覚えていなかったが、なけなしの理性で離れなければいけない事に気付いている。  何故なら膝の上の宇賀が身じろぎをする度に、白い柔らかそうな尻が股間の上をぐにぐにと遠慮もせず蹂躙して行くからだ。  廃嫡されたとは言え、捨喜太郎の体は健康で…… 「すまない  そろそろ  戻らねば  」  途切れ途切れの言葉を絞り出すのは、捨喜太郎がそんな事を微塵も感じていないからだった。  折角、先神を調べにこれたと言うのに、捨喜太郎の頭の中にはそんな物はもうどうでもいい事になっていた。この腕の中の美しい生き物さえいれば、自分は空気を吸い続けられるし、幸福に満たされるし、それ以外に何も要らないと思えてしまう。

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