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かげらの子 36

「おかしい?」  おかしい の言葉の意味を知らないように首を倒され、捨喜太郎は他になんと言えばいいのか分からず視線をずらす。 「変わっているんだ」  言葉を選び直すと理解はしてくれたようだったが、納得はしていなさそうだった。  直向きな目は脅迫だ。  けれど逆らう気は起きず、捨喜太郎は沈めてしまいたかった古い記憶を手繰る寄せるように、芯の通り始めたそれを引き出して見せる。  先端を恥ずかしそうにしたそれは、他の男の物と何ら変わる箇所が見受けられず、今度は宇賀が戸惑う番だった。  戸惑いながら上目遣いに自分を見上げるその姿を目に焼き付けて、捨喜太郎はゆるりとそれを擦って見せる。  戯女を宛がわれたのは父親の配慮だった、同じく『持つ者』だった彼は経験があったのだろう、年頃になり、花の匂いがし始めると言い出した息子に満足そうな笑みを向け、祝い代わりだと大金をはたいて街で評判との彼女を捨喜太郎の為に呼び寄せてくれた。  これでもかと襟を抜いた着物は赤く、大きくて豪奢な帯で締めた姿はまさに蜂の様だった。捨喜太郎の中で忘れてしまいたい記憶となってしまった今では、その彼女の名前は何だったのか、どのような顔だったのか、笑い方は、声は、全て朧気ではっきりとは思い出せない。  けれど一つだけ、はっきりと記憶に残っているのは、初めての経験にはちきれそうになった股間を見られた時の事だ。 「ぁーれ?」  鈴を転がしたような には程遠かったけれど、高い声で彼女は疑問の声を上げて身を引き、それからまじまじと捨喜太郎の顔と股間を何度も見比べて、乱れた着物の裾で口元を覆って曖昧な笑みを浮かべた。 「 にぃさんのは、おぉきすぎぃます 」  言葉の強弱が違うせいか、捨喜太郎には女の言葉が酷く間延びして聞こえ、馬鹿にされているように思えた。 「それに、そぉんな『こぶ』とかございましたら、入りんせん  」  口元を覆っていたのは行儀でも申し訳ないからでもなく、指差したその先にあるものの不格好さを笑ったのを隠す為だった。  小さな爪のついた細い指先が怒張した物を指差し、けら けら けら  と含むような笑いを零す。  初めての期待に膨らんでいたそれは、明らかな侮蔑と嘲笑によって気が削がれて力を無くして項垂れた。自慰の際に一部だけが妙に膨張するとは捨喜太郎自身思わないではなかったが、それが指で示され笑いの元になるほどの物だとは思わなかった。  ────自身の男が、奇形で、奇妙で、笑いの対象だと?  女は悪いと思ったのか、気を取り直してまた科を作って甘えてきたが、捨喜太郎にはそれが気持ち悪くて仕方がなかった。  先程、指をさして笑った物をどうにか出来るというのだろうか と、そんな事ばかりが頭を過ぎり、捨喜太郎は結局その夜、子供から大人へとなる事は叶わなかった。  それ以降、男として落第の判を押された気がして元々苦手だった人との関わりを更に避け、勉学に没頭して行った。  扱いてやれば起立する。  けれどそうすれば根元の瘤も膨らみ、確かにそれは人の物と形を違えていた。 「分かるだろう?」 「    」 「俺のは奇形なんだ。  」  権力に興味を示さず、『おめが』に傾倒し、挙句に性交に向かないこれ だ。

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