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かげらの子 37
父親の落胆を思うと捨喜太郎はその親不孝さ加減に、ただただ頭を垂れたい気分になる。だがだからと言ってその原因である付け根の瘤を刃物で削ぐ勇気は出なかった。
奇妙な人外の形に成長し始めたそれから手を離し、捨喜太郎は自嘲の笑みと共にそれを服の中へ納めるべく、宇賀に立ち上がるように促す。これを見て宇賀もさぞや落胆しているだろうと項垂れたままでいると、下に遣られた視界の端に宇賀の細い指先が現れた。
遊女の物とは違う、爪が微かに欠けて土が入っているのが見て取れる指先が、片付けられそうになった捨喜太郎の項垂れをそっと撫でる。
「 ────ぅっ が 」
小さな子供が汚い物でも触ったかのように、捨喜太郎は慌ててその手を取り上げて急いで服の裾で指先を拭う。
まるで、そんな不浄な物に触れてはいけないと、全身で訴えているかのようだった。
「さきたろ。大丈夫」
やんわりとした動きなのに何故だか逆らう事の出来ない圧を感じて、捨喜太郎は宇賀の動きを遮るのを止めた。そうすると、宇賀は先程一瞬の昂ぶりを見せたそれを愛おしそうに撫で、なんの含みもない純粋な笑いを零した。
「うがは好き」
端から見ればただの滑稽な姿だっただろう、もしくはただ淫乱な奴だと一笑に伏されるだけかもしれない。
けれど長年思い煩って来た自身の劣等感をすとんと何も飾らない言葉で肯定して貰え、捨喜太郎は一瞬心臓の動きが止まったのではと言う錯覚に陥った。
紅い唇を歪めて笑う女が過去の物だとやっと理解できたような気がして、捨喜太郎は宇賀の血の通った赤い唇にそっと触れる。
柔らかなそれは、今まで触れたどんなものよりも心地良かった。
きつく絞った着物を羽織り、粗末な紐で結わえると宇賀は川辺に置いた小さな袋を手早く括り付け、男達が放り投げた荷物を持って捨喜太郎へと振り返る。
「道、帰れる?」
指先は斜面の下りの先を差していて、そちらに村があるのが分かった。
距離的にもそう長い距離を歩いていた訳でもなくて、捨喜太郎は安易に帰れるだろうと首を縦に振る。それを一拍程、心配そうに見詰めてから宇賀は山の上の方へと二、三歩歩き出す。
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