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かげらの子 41

「明後日の夜に祭りが行われます」  伊次郎の簡潔な言葉に捨喜太郎は頷くも、今朝の村の様子を見ても祭りの気配などは一切なく、何か櫓を立てる訳でも飾りをつける訳でもない雰囲気に返す表情は曖昧になった。 「こちらの行事内容については?」  この村の祭事を記した文献には梅雨時の満月の夜に行われる奇祭であるとだけ記されていた。この国では地方によって奇祭と呼ばれる祭りは幾らでもあるのだが、捨喜太郎がどうしても来たかった理由は、その祭りの主神が先神、または『雄雌蛇(おめが)』と呼ばれているからだ。 『おめが』と『雄雌蛇』、ただの偶然の一致と言うには余りにも気にかかる符号で、捨喜太郎はその内容を知りたくてたまらなかった。  ただの偶然なのか、それとも意図があってのこの名前なのか、それとも『おめが』に関係する何かが行われるのか…… 「明後日の月夜ですが、村人総出でこのように……小さな灯篭を持って繰り出します」  伊次郎が見せてくれたのは、薄汚れていたから昔に使われていたものかもしれない。捨喜太郎は許可を取ってその小さな提灯を持ち上げた。  一般に見る提灯よりも更に一回りも二回りも小さいそれは、今は使わないので真っ平だ。月のような色味の提灯に、長い持ち手が付いていて、大きさを鑑みるに中に入れる蝋燭も短く小さな物しか無理そうだった。  祭りの際、ほんの少しの間だけ灯を灯すだけ……そんな役割を持っているように見える。 「小さいでしょう、家を出たのが分かればそれでいいんですよ」 「 と、言う事は、皆様これを持って外出を?」  月夜と指定があるのだから祭りは夜間、屋外で行われるのにすぐに消えてしまう提灯を持ってどうするのだろう?と、捨喜太郎は訝しむ。 「そうです、榎本さんには…………」  続けて説明をしようとした伊次郎の言葉に、捨喜太郎は引っ掛かりを覚えて「あ 」と小さく声を上げた。 「どうかされましたか?」  伊次郎は自分の言葉を区切り、物言いたそうにしている捨喜太郎の方へと水を向けてやる。  訊ねられたとは言え話の腰を折るようで気が引けたが、機会を逃すと聞きそびれてしまいそうだった為、捨喜太郎は一言「申し訳ない」と謝罪してから、「森から助けていただいた時……」と喋り始めた。 「先程は榎本と、けれどあの時は捨喜太郎と呼んで下さっていませんでしたか?」  その言葉に、今度は伊次郎が驚いた顔をして見せた。 「覚えてらっしゃいましたか」 「あ、はい。森の中で、俺の名前を呼んでくださいましたね。お陰様でまっすぐそこに帰ってくる事が出来ました」  下ればいいと高を括っていたが、あそこで何かの気配を感じた捨喜太郎は全く見当違いの方向に走り出してもおかしくはない状況だった。  何かの圧を感じて混乱し、惑いそうになった自分を呼んだ声に導かれて駆け出したが、伊次郎の普段の呼び方を考えれば引っ掛かるものがある。 「蛇が嫌う物とは、何だと思われますか?」  は?と胡乱な顔になる。先程から脈絡があるようでないこの会話に、捨喜太郎は僅かな苛立ちを感じてしまい、恥じ入るように頭を項垂れた。それから視線を膝に移し、蛇の嫌いな物?と胸中で呟く。

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