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かげらの子 48

 先神は、遥か昔に兄弟が流れ着くより前にここで祀られていた土着の神で、『雄雌蛇』と呼ばれていた一対一身の神であり、時代は変わろうともいつの世でも蛇神であるとされる。  社は山向こう、村人でも行けない場所にあるとされる。 「 ────弟の方が頼ったのは、この神なんだろう……じゃあ弟が払った対価はなんだ?それとも、対価もなしに助けてくれたのか?」  ……では、出て行った若者はどうなった?  何故、『雄雌蛇』は弟御の願いを聞き入れた? 「対価が、子々孫々仕える事だったら?」  ……では、血が途絶えたら? 「出て行く可能性だってある」  がばりと体を起こして、捨喜太郎は広げた形に癖ついてしまった冊子を見下ろす。  戦があった時代ではなし、幾ら辺鄙な場所とは言え出て行こうと思えば、決心さえつけば出て行ける場所で、幾ら神に仕える大役があるとは言え逃げる事が可能だ、捨喜太郎が見るに、逃げられないように宇賀の足の腱が切られていたりする様子もなかった。  その気になれば自由意思で出て行ける宇賀が、敢えて残っている理由はやはり神がかり的な何かがあるんだろうかと思い至り、ぐっと息を飲む。 「いや、違うな、対価の為に仕えていたのが時代を経て今の宇賀の役割を担うようになった  のか?先祖の願いの対価が蛇神に仕える事で、結果この村に縛られ、特異な存在となり、やがてこの楽しみの少ない村での娯楽となった?逃がさない為に、きっと碌な知識も与えては貰っていないんだろう」  宇賀を手籠めていた男達の発言から考えるに、教育らしい教育も受けずに育てられたのだろう と、捨喜太郎は口を引き結んだ。 「宇賀はこの村で、空気抜きの役割なのか……」  胸の奥に煙管の先を押し付けられたような鈍い痛みがしたが、捨喜太郎は敢えてそれを無視して眉間に深く皺を寄せた。  男達が、宇賀の白い肌に触れた事も、  男達が、宇賀を乱暴にぞんざいに扱った事も、  男達が、宇賀に汚い白濁の液をまき散らした事も、  どれも捨喜太郎には許せない事だった。だからと言って、立ち寄っただけの外の人間に何の口出しが出来るのか?  男共が投げた荷物の中身は食い物だろう。  畑も田もない人間がここで食って行くには施してもらうしかない。  それを、この村の男達は持ち回りで行っているんだろう。

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