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かげらの子 81
男の沽券に関わる事をこんな形で知らしめられるとは思わず、振り上げる事の出来ない拳を握り締めて何とか言葉を募った。
「……子作りには向いていないのです、その 人の体に入るようには出来てはいないので」
「宇賀 を、お抱きにならないんですか?」
「だ っそう言うのは、強要する物ではないでしょう⁉」
「宇賀はそうではないと思いますよ。現にあの子は寄るなと言っておいたのに、貴男会いたさに安全な山から下りてこの家の周りをうろうろしていたのですから、あの子は貴男に恋焦がれていると思います」
「だからってこんな 私は 」
「貴男が宇賀に種を付けねば――――」
そう言うと伊次郎は着付けを確認するように捨喜太郎の襟の乱れを正し、帯の緩みを確認するためかぐっと指を差し込む。
「 っ⁉」
思わず声を上げようとした捨喜太郎を遮って、伊次郎が人差し指を唇に当てて何も言うな と指示を出す。
「――――他の『持つ者』を宛がうだけです」
「それ は 」
これ以上あの体が他の人間の物になるのかと思うと自然と震えが起き、伊次郎がその対象ではないと分かっているのに知らず知らずの内に目に力を込めて睨みつけてしまっていた。
情の薄そうな目を一度瞬かせてから、伊次郎は留夫がぎしぎしと音を立てる廊下を振り返る。
「 あの子の望みを叶えてやってください」
貴男なら出来るかもしれない と、囁きよりも小さなそれは伊次郎自身に向けての呟きの様でもあった。
「夜は短い。始めますよ、今回の花婿には村の女にも種を付けてもらわねばならないのだから」
そう言って押し込まれた先は明かり一つとしてない小さな部屋だった。
家中に流れていた嗅ぎ慣れない異国のようなきつい臭いはこの部屋から流れ出たものだと、そこに押し込められて気付いた。呼吸もままならないのではと思うような噎せる程の臭いに戸惑い、伊次郎達に空気を入れ替えたいと告げようとした時、その空気の中にある細い匂いが鼻を突く。
その香りが何か と言う事は本能的な部分では分かっていたし、今までそれの系統の匂いを嗅ぐ機会もあった。けれど今この時に自分へと這い寄ってくる匂いを、捨喜太郎は知らなかった。
濃い、熟れた、花の匂い。
「 ──── れ?」
部屋の奥に居た何かが声を発す。
「 ぁ、」
問いかけのように出た言葉に我に返ったのか、さっと動いて隅に逃げる気配だけがする。
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