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かげらの子 101
「すみません、手を貸せたら良かったのですが……」
「いえ 」
細い体をゆらゆらと揺らしていると昼間だと言うのに幽鬼のように見えて違和感があったが、その理由を知って捨喜太郎ははっと息を飲んだ。
おくるみに包まれた、小さな……
「…………」
腕の中に視線を遣って動かなくなってしまった捨喜太郎に気付いた伊次郎は、小さく苦笑を零して「こちらへ、座りましょう」と捨喜太郎に声を掛けた。
「もう、お体は?」
「……なんとか」
「 そうですか、 それは その 」
そう言うと伊次郎は言葉を続けようとしたが、言葉が探しきれなかったのは再び口を閉ざしてしまう。
「あのっ …………宇賀 は 」
ぴりっとした空気はそれが禁忌だと教えるには十分だった。
背を向けられているのに、その表情が分かる気がして……
「お座りください、その足ではお辛いでしょう」
示された縁側によろめきながら腰を降ろし、やはりゆらゆらと揺れている伊次郎を見遣る。
その態度に捨喜太郎は心当たりがあった、話さなければいけない事柄を話したくなくて時間を稼ぐ人間の仕草だと。
「宇賀 は 、どこですか」
だから促す為にそう尋ねかける。
「────宇賀は、亡くなりました」
「亡く 」
予感はあったのに、改めてそう口に出されるとそれはざりざりとした岩のように、柔らかい心を削り取って行くような言葉だった。
「嘘だ」
雀遣りの音のなくなった村は静まり返っていて、小さな物音でも木霊するように良く響く。捨喜太郎の否定の言葉も、呻くような声量の筈なのにやけに大きく聞こえる。
「嘘 ですよね」
お決まりの、まるで映画の台詞のようだとどこかで思いながらも捨喜太郎は言葉を止める事が出来ずに繰り返す。
「質の悪い、嘘です」
「榎本さん……」
「祭りを台無しにした私に、質の悪い嘘を言っているのだと……」
「雪の降り止んだ、冬の晴れた日の事です。力及ばず……申し訳ない」
「嘘だっ!」
叫んで伊次郎に飛び掛かろうとした捨喜太郎を寸でで止めたのは、伊次郎の腕の中で眠る赤子の小さなむずがりだった。
弱い、あっと言う間に命の火を切れさせてしまいそうな程に小さな存在が、衝撃に震える捨喜太郎を押し止めて落ち着かせる。
うず と機嫌を損ねそうになった赤子を慌ててあやす伊次郎に毒気を抜かれて、捨喜太郎は力が入らずにぺたんと尻餅をつくように再び座り込んだ。
「嘘だと……言って下さい」
「この子を産み落として、眠るように逝きました」
と、伊次郎はまるで何年も前の事を語るような口調で呟くと、捨喜太郎の腕の中にそっとおくるみに包まれた小さな赤子を渡す。
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