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落ち穂拾い的な 偶然
「痣が遺伝するってあるんですか?」
騒がしい食堂の隅に陣取った瀬能としずると、タイミングの合ったセキが日替わり定食を突いていた。
「良くあるじゃないですか、この痣は〇〇家の人間の証拠だ!とか赤ん坊の頃に誘拐された××には母親と同じ痣が……とか」
「うんうん、あるねぇ推理モノとかに多いよね、あとは怪談話」
そう言われて、自分で話を振った筈なのにしずるは顔を青くして俯く。
「うーん……どうだろうか?ない訳じゃないだろうけど、少なくとも僕はないと思ってるよ。どうしたの?突然」
「や、この間の……産まれた子供に同じ痣がって……」
「あー……遺伝する病気でもなさそうだし、不思議だよねー」
そう言って瀬能は味噌汁を啜る。
「軽くないですか?」
「軽いも何も、分からない物をずっと考えていても埒が明かないよ」
「そう言うもんですか」
「謎が解けるに越した事はないと思うけどね」
何かすっきりとした返事をして貰えるものかと思っていたしずるは肩透かしを食らった気分で魚を突いた。
「顔に痣 って、消えるんですかね?」
「消そうと思えば美容整形も化粧も日々進化しているんだから問題ないと思うよ」
「顔に痣とか傷があると、ちょっと視線に困るよね」
最後に残ったトマトと格闘していたセキがそう話に入ってくる。
「分かるー!クソジジィの連れにいてさぁ、どうしても目が行っちゃうし、でもあんまじろじろ見るのは行儀が悪いし失礼だしな」
「うちも母親の恋人がそうだった!昔やんちゃした痕だよって言ってケラケラしてたけど、やっぱねぇ……」
そう呻きながらセキはしずるの皿にぽい!とトマトを放り込んだ。
「知ってるかい?帽子を被っていたり絆創膏を貼ったりすると、そっちに気が行って顔の印象が薄まるって話」
トマトをセキの皿に戻しつつ、しずるは「?」と首を傾げた。
「強盗とかする時に、そう言ったものがあると、似顔絵が作りにくくなるそうだよ」
「ああ、でも確かに顔を思い出すより傷の印象が強くてそっち思い出すかも」
「うーん……言われてみれば……」
そう言ってセキはトマトを再びしずるに譲る。
「「左の目の上のさぁ」」
そう言葉が被ってしずるとセキは目を瞬かせ、お互いにきょとんと顔を見た。
指先で、こんな風な と互いに示してみて傷跡の一致に「おおー」と面白そうに声を上げる。
「鈴木さんって人だったんだけど」
「あ、じゃあ違うや、田中って人だったもん」
流石にそこまで一致はしないかぁとお互いに笑い合う二人の間で行き来するトマトを取り上げ、瀬能はぱくりと頬張る。
「食べ物で遊ぶんじゃないよ。罰として後で二人とも部屋に来なさい、ちょうど片付けて貰わなきゃいけなくなってたんだよ」
珍しく厳しい表情でそう言うと、瀬能はトレーを持って立ち上がった。
END.
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