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お可愛いΩ お可哀想なα 33

 須玖里さんとは全然似てなくて……オレは思わず立ち竦んで鞄をぎゅっと胸の前で抱き締めた。  柔らかい微笑みと、目尻に寄った皺と、それから…… 「あ、あのっ須玖里さんはいらっしゃいますか⁉」  じろじろと見てしまう前に慌てて顔を伏せて、自分でもびっくりするくらいの大きな声でそう尋ねてしまうと、カウンターの中にいた男性は驚いたように「あー……」と声を漏らすと、もう一度席を勧めてきた。 「このお店によく来てた子だよね」 「え と、はい」  男性の顔を真っ直ぐに見るのが躊躇われて、飴色のカウンターの木の年輪を視線で辿る。 「私は臨時で雇われてるんだ。須玖里さんの用事がもう少しかかるから」 「用事……って?なんですか?」 「さぁ、そこまでは 」  いきなりそんなことを聞かれて面食らったようで、男性はそれだけを言って困ったように苦笑した。  それはそうだ……須玖里さんがこの人に何か話してるとは限らないし、話していたとしても内容が内容だとしたら人に言っていい訳じゃないだろうし。  まっとうな反応をされたんだけど、どうしても知りたい気持ちがぐるぐる体の中に巡ってしまって、しかたなくちょっとだけ頬を膨らませた。  しょんぼり肩を落とすオレに、男の人は困ったようだった。逃げるようにカップを選びに行ってしまい、ぽつんと取り残されたオレはスツールの上で小さく身を縮める。 「須玖里さんと会ったら、心配してたって言っておくからね」 「はい、ありがとうございます。えっと……」 「私は仙内だよ」  仙内さん と口の中で呟くオレの前に、小さな豆皿が差し出された。  須玖里さんの時はこのお店に相応しく宝石の形をしたクッキーだったけど…… 「おばけだ  」  白い布を被ったお化けが、アイシングで可愛らしく描かれている。  おばけって言ってしまうのが申し訳ないほど茶目っ気たっぷりの姿に、ぱちりと目が瞬く。 「そう、ブギーマンだよ」 「 ?」  ブギーマン? 「コーヒーどうぞ」 「はい、ありがとうございます」  ハロウィンが近いから?  店内を見回してみてもそれらしい飾りはないし、この豆皿の上だけハロウィン仕様と言うのも不思議だった。 「気分だけでもね」  って言われて、そんなに顔に出てたかなぁって頬を押さえてムニムニと揉んでみる。 「学校帰り?」 「そうです」  そう返してはみるけれど、正直会話になりそうな話題はなくて……

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