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お可愛いΩ お可哀想なα 32
カレー屋さんにはいろんな辛さにチャレンジできるとこもあるらしいから、ちょっと限界にチャレンジしてみたいなって思ったりもするんだけど、うちはお父さんが嫌がるから外食ってあんまりしなくて、機会がないんだよね。
「?」
ちょっと気に掛かって食堂の入り口の方に目を向けると、他の人達よりも高い位置にある頭が二個、ふらふらと疲れ切った感じで銀花に近寄って行く。
きつねうどんを食べていた銀花が嬉しそうに顔を上げるから、仁達で間違いないんだろう。
水を飲むふりをして様子を窺っていると、ネクタイをちょうちょ結びにした三人がしょんぼりと肩を寄せ合っている。
「ん────……」
予想としては、提出課題を出さずに忘れて虎徹先生に絞られたってとこかな?
あれほど毎日毎日、余裕を持ってこなしておいた方がいいよってせっついてたのに!提出直前にすればいいやとか思ってたんだろうなってとこまで考えついてしまう。
まぁいい経験。
三人でしおしおと食事をするのをこっそり見ていると、ちらちら と銀花の視線がオレの方へと動く。落ち込んでいる二人は気づかないだろうけど……双子ならではの以心伝心でなんとなく気持ちはわかる。
ありがと と。
気まずかったけど困ってたし、でもやっぱり気まずいから何も声をかけずにきつねうどんを置いてカレーライスを奪って来たんだけど、それでよかったのかなって思う。
やっぱり兄弟だから、仲良くいたいし ね。
明日から海の学校だけど、来れたら来てねって内容の手紙を持って今日も少し遠回りして家に帰る。
きっと今日も、カフェ『la fluorite』の素朴な木とガラスでできた扉には「しばらくお休みします」って貼り紙がされているんだろうなって、期待もせずにその前を通った。
一歩、二歩、
慌てて駆け戻ると、いつも張られていた貼り紙が綺麗になくなっていて、お店の中が明るい。
「えっあ っ」
扉をゆっくりと押すと、柔らかいベルの音がしてふっと気持ちが軽くなる気がする。
薫と何度か来たことのある店内は変わりなくて、カウンターの方から「いらっしゃい」と声をかけられて慌ててそちらに駆け寄ろうとした。
「どうぞ、こちらに」
にこ と笑ってオレを出迎えてくれたのは中年の男性だ……
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