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SS_おねだり3
お皿を早々に決めた僕は真剣にマグカップを選ぶ長谷さんの横顔をこっそりと堪能する。
暫くして僕の視線に気が付いた長谷さんはちょっと照れながら、「これにしようかな」とシンプルなデザインのマグカップを手に取った。
「いいですね。僕も好きです、そのデザイン」
「良かった。…………もしかして、ずっと見てた?」
「だって格好良かったんですもん、真剣な顔してる長谷さん」
「うーん、嬉しいけどちょっと恥ずかしいなぁ。じゃあこっそり盗み見たお代として、ここは俺にプレゼントさせてね」
そう言うなり長谷さんは僕の手から選んだお皿を奪い去ってしまう。
「え、お代って言うなら僕が払うべきなんじゃ……」
「俺からのプレゼントを受け取るのが郁弥のお代ってこと」
背中を追い掛けたけど長谷さんは譲ってくれる気がない。
そのまま作業中だった店員さんに声を掛けて、手早く会計を済まされてしまう。
「なんか、すみません……」
お店を出て開口一番、僕は眉尻を下げた。
「そんな顔しないで。俺が郁弥に買ってあげたかったんだよ。こんなじゃ喜んでもらえない?」
「そんなことないです!嬉しいです!とっても!」
「ふふ、じゃあもっと笑って。折角のデートなんだし暗い顔は見たくないな」
指先で自分の頬を突きながら「スマイル、スマイル」と笑って見せる長谷さんが可愛くて、自然と頬が緩んでしまう。
「ふふ、そうですね。デートですもんね。ありがとうございます、お皿もマグカップも大切にします」
「うん。よし、そろそろ映画の時間だね。行こうか」
歩き始めて早々、「ところで」と長谷さんは口を開いた。
「郁弥はいつもの俺より、こっちの方が好き?」
「え?」
「どっちが良いのかなって」
「…………うーん、そうですね……。見たことのない一面を見られてドキドキしますけど、でもやっぱり僕は長谷さんが好きなのでどっちが良いとかはないです。どんな長谷さんも大好きです。長谷さんはいつだって格好良いですから」
「………………」
確かに普段とのギャップにドキドキした。でも結局行き着く所は変わらない。僕はどんな長谷さんだって大好きなんだ。
「あー…………失敗したな」
意気揚々とガッツポーズを決めた僕の隣で、長谷さんは困ったように笑いながら目頭を押さえた。
「何がです?」
「うん、ちょっとね……訊くタイミング失敗したなって思って。映画の後にすれば良かったよ」
「?」
「郁弥を今すぐ連れて帰りたいってこと。そんなに可愛い事言われたら俺だって我慢出来ないんだよ?」
「う……そんな、うぅ……」
「夜は覚悟しておいてね、郁弥」
【SS_おねだり END】
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