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SS_おねだり2

食器を買うお店をどうやら長谷さんは予め目星を付けていたらしい。 そこは映画館のすぐ近く、大きな通りから一本路地を抜けた場所にひっそりと佇んだお店だった。 木目の看板が可愛らしく、窓ガラス越しに沢山の食器が並んでいるのが見える。 「すごい……綺麗……。素敵なお店ですね」 「うん、郁弥を喜ばせたくてね。こっそり探してたんだ」 長谷さんは時々子供のように無邪気に笑う。笑顔を絶やさない人だけど、僕はこの笑顔が一番好き。 「さあ、中に入って買う物決めようか」 「はい!」 長谷さんが開けた扉を潜って、オレンジ色の照明に照らされた店内へ。小さめのお店だけれど品揃えは目移りしてしまう程。 いらっしゃいませ、と聴こえた声は若い男性のもので、目を向ければレジの奥で何やら作業をしてる様子だった。 「今日は何を買おうか?」 「あ、えっと取皿とグラタン皿が欲しいなって思って……」 「うんうん、あとは?」 「あとですか?あとは……うーん……特には……」 そう言うと長谷さんは「そっかー、残念だなー」と口にしながら、近くにあった二つのマグカップを手に取った。 「こう言うの、してみたくない?」 「それって……」 「ペアのマグカップ」 「でも僕も長谷さんもマグカップ持ってますし……」 「だめ?子供っぽいかな?こう言うの今まででした事ないから憧れだったんだけど……郁弥は俺としたくない?」 僕の目線の高さに合わせて首を傾げた長谷さんはちょっとズルい大人だ。 「ぼ、僕もしたことないので、その、してみたいです……!」 「ふふ、やった。じゃあマグカップは俺が選ぶから、お皿は任せていいかな?」 「はい!」 い、一日とか贅沢言わなきゃ良かったかも……。これじゃ僕の心臓持たないよ……。

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