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 白根は家の者の様子をうかがいながら階段を駆け上がり、桔梗の間の奥の部屋に飛び込んだ。 「どうした」  松岡は無精髭こそそのままだが、白根が真夜中に人目を盗んで風呂に連れて行ったお蔭で垢も落ち洗濯した服を着てさっぱりとしていた。散らかしていた荷物もリュックサックに収めて布団もたたんである。 「公安がいる。ふたり」  舌打ちして松岡は座り込んだ。 「もっといてもおかしくないな」 「H**線でローラー作戦したらしい。降車駅は割れてしまったようだ」 「うん。歩いてたら軽トラとすれ違った。真夜中だから大丈夫だと思ってたが、ライトに照らされたからなあ」 「M**駅から山越えしたんじゃないかと言っておいたが、公安が僕の意見を参考にするかどうかわからないし、すでにこの町で複数が聞き込みをしているんだ」  ついつい声が大きくなってしまい、白根は慌てて息をひそめた。 「……今日明日は出ないほうが良い」 「急いでるんだがなあ」  松岡は不機嫌そうに呟く。 「ここは東京じゃないんだ。君みたいな余所者が観光客らしからぬ動きをしたら、すぐに見とがめられる。僕だってそうだ。繁忙期なのにウロウロしていたら声をかけられる。年寄りなんてお節介だからね。もしかして公安が君の風体を町の人に触れ回っているかもしれない」 「わかった、わかった。ここにいる」  松岡はリュックサックの中を掻き回してしんせいの箱を出した。 「昼間は駄目だって言っただろ」  中身のほとんど無い箱を取り上げられた松岡は、 「じゃあ」 と言うなり白根の背中を抱いた。 「おい……昨日だって散々……」 「ムショで禁慾してたからかな」 「仕事中だって」 「口でしてくれればいいから」

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