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Ⅲ 殿下と閣下③

「兄上!」 再び俺は、謁見の間の中心で兄を叫ぶ。 (おや、動かないぞ) おかしいな。さっきは動いたのに。 簀巻きになっていた絨毯の中心で、うつ伏せた兄、フリュードリヒ・ヴィルヘルムが動かない。 ここは俺も薔薇の海に身を投じて、兄上を抱き起こし、麗しき兄弟愛を見せつけるべきか。 「兄上」 取り敢えず、もう一度呼んで時間稼ぎしよう。 「兄上……一体どうして兄上が絨毯の中から」 ……………… ……………… ……………… 「…………………………夏月」 兄上が動いた。 動いたばかりか喋ったぞ! 「私がなぜ、絨毯にくるまっていたのか……それは」 はらり、ひらひら 花びらが舞った。 薔薇の絨毯に浮かぶ花弁を散らして、兄上が起き上がる。 (そうか!) 『どうして兄上が絨毯の中にいたのか』 これが兄を目覚めさせるキーワードだったのだな。 ……要するに、聞いて欲しかったんだな。 (兄上、ちょっとめんどくさい……) 「……夏月?聞いているか」 「はい。もちろんです!」 「私がなぜ、絨毯にくるまっていたのか。それはね」 薔薇の大海に跪き、一枚、花びらを手にとる。 「お前に会うためだよ」 真紅の花弁に口づけた。 「俺……小官(しょうかん)にですか」 「改まる必要はない。お前は私の弟だ。王位継承権を放棄し、王族でなくなろうとも私達が兄弟である事に変わりはない。……だがね」 玲瓏が陰る。 秀麗な面持ちが陰鬱に染まり、眉間をひそめた。 「お前をよく思わない者がいまだにいる。王宮とはそういう場所だ」 権謀術数が渦巻く。 黒き権力の巣窟である。 「お前に会いに行くのも、ままならない。ゆえに、絨毯にくるまったんだよ」 「そうでしたか!」 ……………… ……………… ……………… 「………」 「………」 簀巻きになる意味が全く分からない。

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