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Ⅲ 殿下と閣下④
「……夏月?聞いているか」
「もちろんです!」
「………」
「………」
「流石は兄上!お見それいたしました」
「だろう!」
さざ波色に淡い光を帯びた前髪を指先で弾くと、フゥっと口許に微笑を浮かべた。
『お見それいたしまた』
どうやら、偶然にも会話を繋げるキーワードを選んだようだ。
……要するに、褒めて欲しかったんだな。
なにを褒めたのか、俺自身にも分からないのだが。
(兄上、やっぱりめんどくさい……)
「……夏月?」
「聞いております!兄上」
「ならば、いい。深夜になるのを待って、私は一人、絨毯にグルグル巻きになった。そうして、この絨毯をお前への『お中元』と称して見事★!!
誰にも知られる事なく、王宮を脱出する事に成功したのだよ」
「はぁ……」
足元まで飛んできた花びらを一枚、摘まみ上げた。
(なんで、絨毯に薔薇の花も入れたんだ?)
「いいところに気づいたね。薔薇は私の趣味だよ」
「………」
兄上の摘まんだ薔薇の花弁が、ふわり。 飛来して、俺の頬を撫でた。
「驚いたろう?途中、お中元を運ぶ従者には、私が中にくるまっているのが見つかってしまったがね。ハッハッハァァーッ」
(見つかった時点で絨毯から出ろよ、兄……)
「腑に落ちない顔をしているね。なにか問題でも?」
「はっ。兄上ともあろう御方が、絨毯で簀巻きなど……そのようなお姿で入城せずとも」
「それはできない。ここへ至るまでに、いくつもの関所がある。検問でフリュードリヒ・ヴィルヘルムだと知れれば、王宮に連れ戻されてしまう」
「あなたがいない時点で王宮は大騒ぎでしょう」
「私の知った事じゃない」
「おいっ」
王位継承権第一位王子!
「なにか文句でも?」
「いえっ。なんでもありません」
「そうだろう、そうだろう」
いつの間にか、目の前に立っていた兄の爪がつっと俺の喉を辿った。
「無理もない。我が才知、我が勇猛に言葉も出ないか」
「~~~」
そうじゃないんだ。
ハァハァハァ
「身の危険も顧みず、お前に会いに来た私は……」
ハァハァハァ
「まさに次期王たるに相応しいだろう」
ハァハァハァハァ
明らかに。
兄フリュードリヒ・ヴィルヘルムの息が上がっている。
ハァハァハァハァ
「どうしたんだ?」
ハァハァハァハァ
「こっちへおいで」
一歩、後退りした俺の腕を兄が捕まえた。
「私達は兄弟だと言ったろう」
ハァハァハァハァ
ハァハァハァハァ
ハァハァハァハァ
兄上が………
恐い!!
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