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Ⅲ 殿下と閣下④
「畏れる事はない!」
ハァハァハァハァハァハァハァ
(いや、だから恐いからッ)
「兄上!」
「そうだ。私はお前の兄だ。仲睦まじいお兄様だよ」
ハァハァハァハァハァハァハァ
(来ないでくれ!)
……などとは到底言えず。
ぎゅっと手首を掴まれて、俺の体は囚われる。
ハァハァハァ
ハァハァハァ
荒い息遣いが耳元を揺さぶる。
「夏月!」
「なんでございましょう」
そうだ。
兄上が王宮を抜け出して、こんな辺境の我が居城までやって来たのである。
深い理由があるに違いない。
強欲で嫉妬深い兄上だ。
王宮を離れたのに、まだ俺をよく思わない貴族・官吏がいるらしい。
兄にとって、俺をよく思わない……とは、そう。
兄の耳に入る話である。
(つまり俺は、兄を敵視していると思われている)
考えろ。どうすれば敵視していないと認めてもらえる?
どうすれば……
(この城を兄に差し出すか)
奮戦の末、ようやく切り取った領土だが、疑いの目を向けられるよりマシだ。
(そうだ!それしかない!)
この窮地を抜けるには。
「我が領地を、兄上に!」
誠を尽くせば、兄上だって分かってくれる。
俺に叛意はない。
あまたの血を流して敵より切り取ったこの領土だが。
「私はそんなものより……」
なぜ、あなたはッ
瞬間、目の前が真っ暗になる。
血と汗を流して切り取った領地を、そんなもの……だなんて。
あなたは所詮、高みの人。
(なにもわかってない!)
あなたはなんでも持っている。
国も、人も、財も。
あなたはなんでも思うようになる。
(けれど)
俺は、この領地以外なにも持たないんだ。
「夏月。私はそんなものよりも……」
「うるさい!」
自分でも、どうしてこんな大声が出たのか分からない。
俺は初めて、兄上に逆らった。
「……この城は、あなたのものだから。俺、出ていきます」
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