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26a 航路は、銀の矢のごとく *
「……お前はそういうことはしなくていい」
「何でだよ、シグルズはするじゃんか」
舌の先だけではとても愛しきれないので、意を決してそれを口の中へ導き入れる。入浴したばかりのためか、意外なほど嫌な味はしなかった。顎を大きく開いて喉の方まで飲み込む。唾液を絡めているうちに滑りがよくなり、唇で締め付けながら頭を動かして扱いていく。
「んっ……んぅ……」
慣れていないためか不器用な動きになってしまったが、奥まで咥え込んだ時に吸うと、シグルズの太いそれが少し反応した気がした。ちゃんと出来ているだろうか。不安になって咥えたまま見上げると、シグルズはいつも通りの涼しい顔をしていたが、そっと髪に触れてくれた。撫でられるのは嬉しい。褒めてくれているのだろうか、そう思いながらイェークは舌を使い続けた。
シグルズのものがどんどん大きく、固くなっていく。苦い液が滲むようになり、それを吸い上げているとついにイェークの口には収まりきらなくなって、口から離すことにした。上手く呼吸が出来なかったせいで少し息が上がってしまっていたが、そそり立って天井を向くそれを目の前にすると、何か昏い達成感のようなものがあった。
「何をニヤついている?」
サイドボードの引き出しからローションを取り出したシグルズが、不審そうにしながらそのローションの蓋を取る。
「あ、だめだって。それも俺がやるんだから」
ローションを取り上げると、シグルズはあからさまに眉を寄せた。
「何故だ」
「シグルズは怪我してるから! 安静にって言われてるだろ。その、それでもしたい、から……それだったら、全部俺がやればマシだろ?」
不服そうだったが、膝でずり上がってキスをして宥める。
「治ったら、その時またシグルズがしてくれればいいだろ……?」
ローションを指の上にたっぷり垂らし、その指をそろりと脚の間へ這わせる。まだ慎ましやかに閉じている入り口に、恐る恐る触れた。
「っ、」
最初の一本を受け入れるのは勇気が要ったが、痛みはなかった。息をゆっくり吐きながら指を進めていく。自分の指ではほんの入り口までしか届かないが、後からちゃんと満たされるのだからと思い直して、焦らずにその一本に慣れることに専念する。抜き差しの度に羞恥を煽る濡れた音が鳴ってしまう。
「ふ……ン……」
敏感な襞に触れていると、つい腿の力が抜けそうになってしまい、左手をベッドに突く。
「本当に一人で出来るのか?」
「ちゃ、ちゃんと、……ん……し、てる、だろ……」
後ろに挿入ったまま声を出すのは難しくて、ふるりと肩が震えてしまう。
「そうは見えんな。本当に出来ているのか、ちゃんと見せてもらおうか」
「え……?」
「尻をこちらへ向けてやれ。四つん這いになって。そうすれば見える」
「なっ……!」
そんな恥ずかしいこと、出来るわけがない。今だって、必死にシグルズの食い入るような視線に耐えながら、こわごわ触れているのだ。いつもはシグルズに触れられていたので、彼は手元を見ているだけだと自分に言い聞かせていた。けれど、それではまるで、自分で慰めているのを見せつけているのと同じではないだろうか。
いつまでも硬直していると、シグルズは身体を起こそうとする。
「動いたらだめだって! ……うー……」
シグルズはにやにやしながらこちらを見ている。イェークを困らせて面白がっているのだ。けれど、こんなことで安静を解いて怪我が悪化したらと思うと、強気で断れなかった。
「じゃ、じゃあ……これで、いいだろ……」
シグルズの脚の間に座り込んで、脚を開いてそこを見せる。彼の視線がそこに集中するのが痛いほど分かって、頬が熱くなる。再び指を差し込み動かすと、すでにとろけ始めたそこがひくついた。
「一本だけでいいのか?」
「い……今、慣らしてるん、だから」
「なら、二本の指で広げてみろ」
「そういうこと、言うなよぉ……」
この身体が指一本だけで満足出来るはずがない。そこを押し広げられ、息が止まるくらいに大きな質量で埋められるのが大好きなのだ。その快楽を思い出すとついつい指が伸び、人差し指に伴って中指も飲み込んでしまう。くちくちと恥ずかしい音が鳴るのも構わずに、入り口を好きにいじってしまった。
「は、はぁっ……ぅ……ぁ、ん……」
鼻から抜けるような甘い声が漏れてしまう。
「ふぅん、俺のいない間もそうやって凌いでいたのか?」
「ち、違っ……」
かあっと頬が熱くなり、慌てて首を振るが、実は自信をもって否定しきれない自分がいた。シグルズが入院している間、この広すぎるベッドに一人きりだったのだ。シグルズの匂いを探しているうちに身体が淋しさを訴えてしまい、仕方なく一人で慰めた。けれど後ろに触れると絶対に埋められない淋しさが増すばかりで、こうしてシグルズと共に過ごす時を心待ちにしていたのだ。
だがそれももうすぐ叶う。三本に増やした指が徐々にスムーズに動くようになり、イェークの身体の準備が整いつつあった。さらなる刺激がほしくて、好きなところについ触れそうになってしまうのだが、上手く届かない。自分で自分を焦らす結果となり、切なさが募る。シグルズは、そそり立った自らを見せつけるかのように扱き上げた。彼がいつもより掠れた声で命じる。
「ほら、早く来い」
「うん……」
イェークも我慢の限界だった。前の花芯は立ち上がり、今にも透明の愛液が零れそうだ。むしろこれ以上我慢させられたら、シグルズが見ているのも構わずに本当に自分を慰めてしまいそうだった。
手を引かれ、彼の上に跨る。先端を蕾の入り口へ誘導し、自ら両手で尻を押し広げながら、ゆっくりと腰を下ろす。
「……あっ、あ……待って……ゆ、っく、り……」
自重は容赦なく剛直を突き入れたが、それが悦かった。猛ったものは先端が張り出していて、そこを飲み込む瞬間はどうしても入り口に負担がかかる。けれど、そのきつさがいい。彼でいっぱいにさせられる実感で、胸が震えた。そして深くまで飲み込んでしまえば、極楽のような快感に浸れることをこの身体は知っている。
「あ……あ、あっ……おっきい……んっ……」
息を止めたり吐いたりしながら、もっと脚を広げて奥へ迎え入れる。その瞬間、シグルズはイェークの腰に手を添え、猛ったものを一気に突き入れた。
「はあああああんっ! あーっ!」
いきなり奥を突かれた衝撃で、イェークは喉を反らして硬直した。
「うっ……だめ、……ってば……! 動いちゃ……あん! 俺が、動……から……!」
「焦らしすぎだ……。それに、お前も早く欲しかったんだろう?」
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