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第7話

 二ヶ月後――。  俺は寝室のベッドの上で両膝をきちんと揃えたまま腰掛けて、壮登がバスルームから出てくるのを待っていた。  何度も深呼吸を繰り返して、早鐘を打つ心臓を落ち着けようと胸元を押さえ込んだ。 「――あれ?もう寝たのかと思ってた」  髪を乾かしてきたのだろうか。それでも毛先には湿り気が残っている。  ベッドに近づき、不自然に腰掛けている俺の隣に座ると、不思議そうに覗き込んできた。 「どうしたんだ?蓮……。また何か悩み事?」  俺は黙ったまま首を横に振った。  そして――。  深く深く息を吸い込んだ後で、彼の首に両腕を絡めた。  普段、俺から誘うことなどない事を知っている壮登は少々困惑気味に目を見開いた。 「――ちゃった」 「え?」 「妊娠……しちゃった」  しばしの沈黙。その後でゆっくりと、でも先程よりもさらに大きく目を見開いた壮登が俺を勢い良く抱きしめた。 「それ、ホント?ホントなのかっ?」 「うん……。今日、病院に行ってきた。まだ二ヶ月だから安心は出来ないけど」 「ホントに?あぁ……夢みたいだ」 「夢じゃないよ……。正真正銘、壮登の子供だよ?」  俺は彼の胸元に顔を寄せて潤んだ目で見上げる。彼もまた鼻を擦り合わせるように顔を近づけて来た。 「嬉しい……っ」 「俺も……」  彼の喜ぶ顔を見ていたら我慢していたはずの涙が流れてしまった。  その滴を舌先で掬ってくれながら頬を摺り寄せてくる壮登が愛おしくて仕方がない。  この体に宿ったのは壮登がくれた命……。  あの日、互いの左手に繋いだ愛情が俺の中で結晶となった。 「絶対に無理はするなよ。大事な体だからなっ」 「大袈裟だなぁ……。大丈夫だよ」 「いや!絶対安静だっ」  この様子ではいつ会社を辞めさせられるか分からない。産休を取るまでにはまだまだ期間はある。 「だ~め!生活には困ることはないんだから、お前はこの子を守る事だけを考えて!いいね?」 「なにそれ?俺より、この子の方が大事?」 「そんなこと言ってない!俺にとっては――」  ふと言葉を切った壮登は目尻に溜まっていた涙を指先で拭って、そっと唇を重ねた。  温かい舌が口内に滑り込んで、俺は素直に自分の舌を絡ませた。  俺にとっては……の続き。  それは唇を重ねた時に心に直接聞こえて来た。 「二人はかけがえのない宝物だよ。愛してる……」  胸がキュッと苦しくなって酸素を求めて角度を変えた時、俺の下腹が奥のほうで同じように疼いた。  すぐに唇を離して、そっと下腹を擦ってみる。 「――あ、今……動いた」 「え?まだ見えないくらい小さいのに?」 「ん……。壮登のキス、まだ足りないって」  互いの唇が触れあう距離でクスッと笑い合う。  あの時耳にしたコウノトリの声は嘘じゃなかったみたいだ。  これが幸せの予感――?いやいや、幸せの到来!  俺と壮登、そしてこの子の始まりの瞬間だった。

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