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第6話

 さらりとしたシーツが素肌を包み込んでいる。  重い瞼を震わせながら恐る恐る目を開けると、そこは寝室のベッドの上だった。  俺は全裸の上に羽布団をかけられ、身を縮めるようにして横たわっていた。  広いベッドには俺一人だけ。隣にいるはずの愛しい伴侶の姿は見当たらない。 「俺……ど、した?」  今までの記憶が酷く曖昧だ。  突然キッチンで発情したことはうっすらと覚えている。そして壮登の熱も手の感触も……。 「――う?」  小さく身じろいだ時、ポッコリと不自然に膨らんだ下腹と、後孔に違和感を感じてそっと指先を伸ばすと、そこにはシリコン製の栓のようなものが食い込んでいた。 「これ……何?」  体を起こそうとするが、シーツに擦れた肌が甘い疼きを発して無意識に射精してしまっていた。 「あぁ……あんっ」  慌ててペニスを押さえ込んでみたが、指の間に伝う温かい白濁の匂いが布団の中に広がっていく。 「壮登……どこ?壮登……っ!」  発情中の俺を放置して、またあの男のところに言っているのかもしれないと思うだけで底知れない恐怖を覚えた。  体が震え、下腹の奥がきゅぅっと締め付けられる。 「やだ…っ!壮登…どこにいるの?ねぇ……っ!壮登っ!!!」  取り乱してもシーツを掴み寄せる事しか出来ないもどかしさに涙が溢れてくる。  発情期と言えども、今までこんなことは一度もなかった。  壮登に抱かれて幸福感を得る。でも今は不安が体を支配している。 「ずっと、そばにいるって……言った、じゃんっ」  羽枕に顔を埋めて肩を震わせていると、遠慮がちに寝室のドアが開く音に気付いた。 「――蓮?」  耳に心地よい低く甘い声に顔をむけると、そこにはチノパンとシャツというラフな格好の壮登がいた。 「壮登っ!!」 「ごめん…。不安にさせたね」  足早にベッドに近づくと、俺の乱れた髪を払いのけながら何度も唇を啄んだ。 「お前が疲れて少し落ち着いたから、眠っている間に方々に連絡をしていたんだ。もちろん蓮の会社にも発情期休暇の申請をお願いしておいたよ。俺の方も休暇をとったから、ずっと一緒にいられる……」 「ホント?」 「あぁ…。それと病院で処方された誘発剤も飲ませた。それと……」 「なに?」 「――小岩先生に、なるべく精子を子宮に留めておくようって言われたから……」 「この栓のこと?」 「あぁ…。アナルプラグをしておいた。これで俺の精子は無駄に流れ出ることなく蓮の中にいられる」  布団をめくり、俺の後孔に埋められたプラグを指先でぎゅっと押し込んだ時、先程射精した青い匂いが寝室に広がって、俺は頬が熱くなるのを感じた。  未だに手に纏わりついたままの粘度の高い白濁に気付いた壮登は、恭しく俺の手を持ち上げるとそれを舌先で丁寧に舐めた。 「いやぁ……壮登っ」 「誘発剤はちょっとした刺激でも射精してしまうらしい。薬が効いている証拠だよ……」 「そう……なのか?俺……体が、変になったのか、と」 「大丈夫。いつもの発情期だよ……」  耳朶を甘噛みしながら囁く壮登の声が鼓膜を震わせる。  そのままベッドに倒れ込んだ彼は俺の脇腹を何度も優しく撫でた。  その手がポッコリと膨らんだ下腹に差し掛かった時、のけぞった首筋に唇を押し当てて言った。  どのくらい吐き出したのか分からない量の精子があることは一目瞭然だ。 「ここに……俺の精子が泳いでる。お前の卵を探して……。でも、蓮の卵は選り好みが激しいみたいだ。なかなか自分に見合った精子に出会えずにいる……」 「壮登……。ごめん」 「謝ることはないよ。それは大事なこと。だって、俺とお前の子供だよ?そのくらい真剣にならなきゃ意味がない」  彼はチノパンのポケットに手を入れると、そこから小さなビロードの箱を取り出した。  それを俺の前に差し出して、ゆっくりと箱を開ける。  中には銀色の細いリングが二本入っていた。 「――これ、は?」  リングの片方を指先で摘まみ上げて、俺の左手をそっと取り上げると薬指に嵌めた。 「――ピッタリ。苦労したよ……サイズ合わせるの」 「へ?」 「それに、なかなかデザインが絞り切れなくてね……。時間がかかってしまった」  左の薬指の根元で光るリングにそっと唇を寄せて、目を伏せたまま囁く。 「――本当なら、半年前に渡さなきゃいけなかった結婚指輪。やっと……繋ぎ止めた」 「壮登……」 「今まで黙っていてごめん。お前に誤解されるようなことも……。あのビルの前で見たっていう彼はデザイナーなんだ。この指輪のデザインを依頼してた。俺が忙しかったのと、デザインが決められなかったことで何度も会うことになってしまったんだよ。それをお前は”浮気“だと誤解した。でも――驚かせたかったんだ」  壮登はまだ箱に残ったままのリングを摘み、俺に差し出す。 「今度は俺を繋ぎ止めて……。これはお前しか出来ないことだから」 「え……」 「体だけじゃなく、心も……繋がっていたい。一分、一秒たりとも離れたくない」  俺は震えが止まらない指で、それでも落とさないように細心の注意を払いながらリングを受け取ると、彼の左手の薬指にそっと嵌めた。  トクン……トクン……。  心臓の鼓動がうるさい。  発情期の時とは違う音――。  指輪が嵌った手を目の前にかざして彼は微笑んだ。  ゆっくりと体を起こして着ていたシャツを脱ぎ捨てると、俺の体の上に覆いかぶさってきた。 「な…っ!」 「これでお前が抱えていた不安、全部なくなっただろ?――大丈夫、きっと妊娠する」 「壮登……気づいていたの?」 「当たり前だろ?俺はお前の夫だぞ?妻の不安を知らずしていられるわけがないっ」 「あぁ……。信じられない。俺……なんて言ったらいいか…」  そう言った俺の唇に人差し指を押し当てて、壮登は欲情して長く伸びた牙を見せて微笑んだ。 「何も言わなくていいから――感じて。俺を……」  太腿に彼の灼熱が押し当てられるのを感じて、また体の芯が熱くなっていく。  蜜を溢れさせたペニスを扱かれながら、俺は顎をのけぞらせた。  きっと、大丈夫。俺は妊娠する――。  根拠のない自信。でもそれは何かを予感させるものがあった。  幸せを運んでくれるコウノトリの声が彼から与えられる快感の中で聞こえたような気がした。

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