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日誌・35 甘そう(R18)
「一回試して、無理ならやめてやる」
雪虎は、言いつつ、先端を大河のソコへ押し込んだ。
…無造作のようで、慎重に。
潤滑剤をたっぷり施され、散々解された大河の入り口が、くぷり、と小さな音を立てて、雪虎の先端に柔らかく噛みついた。
カリの部分まで、いっきに潜ることは難しかった、が。
押し返す、動きはない。どころか、絡みついた。ねだるように。
大河の中で微かに残った正気が、慄く。
―――――だが、すっかりと色づいて、調教された身体には、力はいっさい入らなかった。
どころか、雪虎を迎え入れるように、…正確には、どうにか身体を楽にするために、必死な心地で、大河はさらに脚を開く。
互いに、く、と息を詰め、―――――拍子に、目が合った。
刹那。
追い詰められた表情で、大河は首を横に振った。止めてくれ、と訴えるように。
見下ろした、雪虎は。余裕のない表情で、は、と息だけで笑う。
「…処女を犯すって、こんな気分か? ―――――なあ?」
どこか、遊びのない声で、言うなり。
雪虎は、―――――いっきに、腰を進めた。
「ぅくっ、…あ、あ、―――――ぁんっ!」
大河の息が上ずる。
じん、と全身に広がった衝撃に、足の指先まで、力が入り、丸まった。
身体の芯を貫いた衝撃―――――それが誤魔化しようもない快感だと悟った時。
先ほどまで指が触れていた、大河の内側の感じる部分に、雪虎の切っ先があてがわれたのを感じる。
予感めいたものに、ぞくりと大河の全身が震えた。
「…ここ、だったな?」
雪虎の温かな掌が、大河の下腹部を、確認するように軽く押さえ、
「―――――イイ声、出せよ?」
雪虎は一度、大きく腰を引いた。大河が危うく、持って行かれそうになった刹那、
「あ―――――…っ」
思い切り、突き上げられる。宣言通りに、弱点を。
たちまち、あられもない声が大河の喉から迸った。
はっきりと、感じ入った、色のついた声だ。頭の中が真っ白になった。がくがくと身が震える。痙攣似たそれが、止まらない。
また、達した。
全身を、押し揉むように、大河は悶える。
「…っと、やりすぎか? 悪いな。もっと、加減する――――あぁ、でも、今なら」
何かを思いついたような雪虎が、引き抜く寸前まで腰を引いたのに、今度は、大河の方が、
「あ、ぃやだ…っ」
抜かれるのは嫌だとすすり泣くような声を上げてしまう。体内の粘膜が、きゅぅと中のソレを引き留めるように収縮したのが分かった。
もう駄目だ。
―――――気持ちいい、気持ちいい、イイ、から…もっと、もっと。―――――もっと。
それしか、考えられなくなる。
望むものを与えるのは、雪虎だ。
今なら、雪虎に命令されたら、大河はなんでもするだろう。
「ああ、よーしよし、いい子だ。まだ抜かないから、安心しろ」
泣くような息を吐きながら、大河は、まだ動きのままならない手を雪虎に伸ばす。
否。
薬物の影響など、おそらく、もうずいぶんと薄れているはずだ。
今、大河の身体から自由を奪っているのは、単純に、―――――悦楽。思考もそれに、ずぶずぶに溶けている。
大河の指に指を絡め、雪虎は子供をあやすように、その指先に唇を落とし、
「そのまま、脚を目いっぱい、開いてな?」
向き合って、片手だけ、指を絡め合い、笑うように目を細めた雪虎は、
「…そぉら、」
大河の中に、思い切り腰を突き込んだ。
刹那。
指では届かない、もっと奥、もっと狭い場所へ、切っ先が分け入って。
大河の身体が、鞭打たれたように跳ね上がり、
「ぁ、ひっ」
仰け反った喉奥をひきつらせた。
放っておかれた大河の先端から、ぷし、と先走りの体液が噴き出す。
それは、もうほとんど、酷いと言っていいほどの快感だった。
大河の中へ、根元まで突き入れたまま、雪虎は焦らすように腰で円を描くように動かす。
たまらないほど、悦かった。それでも、まだ何かが足りない。
いや、あやすような動きは逆に、大河を煽り立てる。
「はあ、はぁ…っ、ふ、あ!」
中の動きに応じるように、腰をくねらせる大河を見下ろし、
「なあ、…その、いい声出す、唇で、さ」
低い声で言いながら、雪虎が、つないでいない方の手を伸ばした。
指先が大河の唇を、気紛れのように撫で、―――――不意に、口の中へ指先を差し込んだ。
指の間で大河の舌を弄ぶように、扱く。
縋るように、大河はその指に吸い付き、自分から甘えるように舌を絡めた。
陶然とした大河の顔を、真面目に見下ろし、真剣に、雪虎。
「俺の、しゃぶってくれよ。後でいいから」
生真面目な顔で言うことではない。とんでもない言葉に、大河は思わず首を振った。
横に。
まだ、それ位の理性はあった、というより、単なる反射の動きだ。
「で、できませ…」
これも、よく考えての台詞ではない。いや、考えたら考えたで、何も言えなくなったろうが。
雪虎は食い下がらなかった。
「あ、そ」
すぐさま、素っ気なく告げる。
「じゃ、お預けな」
「あ…っ」
雪虎は、大河の口から指を引き抜いた。同時に。
「や…、ですっ、待って…!」
一気に先端まで引き抜かれるのに、大河は悲痛な声を上げた。
中に、ほんの先端だけ残された雪虎のそれを、引き留めるように締め上げながら、大河は首を横に振る。
「はあ? できないんだろ? だったら、こっちで咥えるのも嫌だってことだろ」
そんなことを言いつつ、雪虎は、大河の入り口をこねるように、浅い位置での出し入れを繰り返した。
カリの部分を入り口の縁に引っかけるように、引き抜き、また浅く押し込む。
―――――大河の奥が、疼いた。
思わず口走る。
「許して、ください…っ、ゆるして…!」
繰り返し、許しを乞うた。
雪虎は息だけで笑う。どうしようかな、と楽しむ目で。
とはいえ。
なるほど、先ほどは、雪虎の言い方も悪かったのだ。選択肢を相手に残したのがいけない。
大河にしてほしいことがあるならば、―――――こう言うべきだ。
「俺のをしゃぶれ」
そう、命じるべきだった。
この状況で、大河に逆らう選択肢はない。
なにせ、身体の感覚が、昇って、昇って、降りて来られない。
これを宥めてもらうには、大河の中を知っている雪虎に、粘膜をこすり上げてもらうほかなかった。
「します、させてください…っ。だから、お願い、ですから、…っ」
懸命に頷いた大河を褒めるように、
「―――――最初っから、そう言えばいいのによ」
また、雪虎は奥まで突き込んだ。
待ち焦がれた感覚に、背をしならせた大河は陶然と目を潤ませる。
尖り切った数多の神経が、いっせいに快感を拾い、もう理性など何一つ残っていない。
「あぅ、もっと、…トラさん、…も、っと…っ」
「いいぞ、気持ち、いいな…っ、は、片付けてやるから、もっと、漏らせよ」
何を言われているか分からないまま、がくがくと大河は首を縦に振った。
「ふ、ぐっしょぐしょ…濡れて、御曹司のは、甘そうだな。俺も…あとで、咥えてやるよ」
見下ろした雪虎が、獣のように唇の端を吊り上げる。
蕩け切った大河の表情を見下ろし、息を上がらせながら囁いた。
「今の、お前の方が、普段のお上品に冷酷な御曹司サマより、よっぽど」
ゆっくり、腰が動くたび、過敏にヒクつく大河の反応に、雪虎は満足そうに笑った。
「俺は好きだな」
気紛れめいた、優しい声に。
奥までつながった身体ごと、大河の心が、堕ちた。
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