35 / 197

日誌・34 よくできました(R18)

「なるほど? 正義感で動いたって言うより、…それが理由で乗り込んできたわけか」 力が抜けた大河から手を放し、雪虎は身を起こした。 遠くの何かを掴み、 「…ぇ」 大河の尻の下へ敷く。柔らかいような固いようなものだ。これは、枕、だろうか? いや、その正体よりなにより。 大河の顔に、カッと血が上る。今の自身の姿勢を考えれば、仕方がない。 しとどに濡れた足の間を見せつけるような格好だ。 もともとろくに動けない上にぐったりしている大河が、どうにもできないでいるうちに、 「冷た…っ」 濡れそぼった性器が反り返ったままの腹に、何かの液体を落とされた。 「あー、悪いな、御曹司」 それを、ぬるり、雪虎が大河の腹に、腰に、足の付け根に塗り広げていく。 朦朧とした大河は身体を震わせながら受け入れるしかない。 先ほどよりは動けるようになっているようだが、受け取る快感が強すぎて、体力の方が辛くなってきていた。 もう為すがままだ。雪虎の手指に好きなように踊らされ、抵抗する気も湧いてこない。 勝手をされているようなのに、怒りも嫌悪も湧いてこないのが、大河自身、不思議なのだが。 これはおそらく。 雪虎が、御子柴大河にまつわるものではなく、大河個人を真っ直ぐ見ているような心地がするからだろう。 「今度は、俺が答える番なんだが」 大河が考える間にも、雪虎は、荒い息を吐きだしながら、呟き、…同時に。 「―――――ぃうっ」 思わず大河は呻いた。彼の中の、信じられない場所に、雪虎の指が潜り込んだからだ。 一本、だろうか? ぬるり、意外と抵抗なく入ったそれは、中でくっと曲げられる。 大河の肉壺の中で、腹側の何かを、内側から探るように。 「…ちょっと、余裕がない」 腹の中を探られるような、妙な違和感に、微かに息を詰めた大河は、 「ふぁっ?」 雪虎の指の動きに、いきなり頓狂な声を上げ、目を瞠った。 「…あぁ、」 雪虎の声に、楽し気な色が混ざる。 「ここか?」 位置を動かさないまま、やさしげに、指の腹で少し強めに捏ねられた、とたん。 大河の身体が、派手にはねた。 「そ、そこ、ぉ」 止めてほしいのか。続けてほしいのか。 体内に弾けたのは、あまりに強烈な感覚だ。 気持ちいいのか痛いのかもつかめない。 肩で喘ぐ。 荒い息を吐きだす唇は、閉じることもできない。端から、唾液がこぼれる。 なのに、拭うことも考えられなかった。与えられる刺激を追うので、手一杯だ。 情けない状態の上に、また、大河の目じりから生理的な涙がこぼれた。 雪虎が薄く笑う。―――――悪い、笑い方だ。が、それが妙に魅力的なのが始末に負えない。 「…はっ、クスリのせいか、―――――もともと、才能があるのか」 投げ捨てるように笑い、内側からの刺激を緩めながら、雪虎は。 大河の、陰嚢の下―――――会陰部分に、そっと親指を添える。 「はじめてでそこまでしっかり快感を拾えるのは、なかなか、…珍しいんじゃないか?」 親し気な口調で、どこか、嬲るような物言いの、直後。 雪虎は、大河の内側と会陰を、同時にこすった。 「―――――っ!」 声もなく、大河の背が反り返る。 その手が、知らず、シーツを強く掴みしめた。 大河の顎が仰け反る。 一方で、もっとと、腰を雪虎へ捧げるように押し付けた。刹那。 ―――――ソレが、来た。 「や、―――――ぅ…はあっ、あ!」 腹の底から、信じられない快楽がせりあがってくる。 小刻みのさざ波めいた痙攣が全身に走り、―――――一度、硬直。 数度、強く身が跳ねたかと思えば、弓なりに反っていた大河の腰がシーツの上に落ちた。 放心した表情で、大河は上ずる息を繰り返す。全身に力が入らない。 にもかかわらず、快感が身体から、一向に抜けない。 一度の絶頂で霧散するどころか、針金じみた快感の芯が、身体の中心に通り、鼓動に合わせて強く疼き続けている。 射精後の気怠さが一向に訪れない快感の強さに、大河は泣き出しそうな顔で目を閉じる。 いや、もともと、生理的な涙が止まらない状態なのだが。 …放った感覚はなかった。その事実をしっかりと目で確認するのが怖い。 なのに。 「よくできました、と」 笑みを含んだ雪虎の声が、して。 「ぃ、」 また、中から押し揉むような刺激に、大河は目を瞠る。顎を仰け反らせた。 身体の動きが、もう、自分ではどうしようもない段階にある。今の大河は、雪虎の思うがままだ。 「―――――やぁっ、トラさ、も、無理…っ」 声にも、涙が混じっている。 どうしようもないほどの快感に、身体も精神ももうほとんど乗っ取られていた。 どのくらい、無理だ、とうわごとのように訴えただろうか。 指を増やされ、解すようにされる合間に、脚は限界まで開かされ、さらに何度か達した頃に、なって。 「無理? ふぅん、しょうがないな」 執拗なくらい、追い上げていた雪虎が、不意に、そっけなく言った。 「ぁ…っ?」 間髪入れず、指が引き抜かれる。 びくんっ、と派手なくらい、大河の身体が震えた。 咄嗟に、大河は途方に暮れた目で、雪虎を見上げる。見下ろした雪虎が、満足そうに笑うのに、じわじわと羞恥で身体が熱くなる。 大河の身体が、物足りないと訴えていた。だからきっと。 雪虎を見上げた大河の目は、物欲しげだったはずだ。 これか、と大河は察した。雪虎の狙いは、大河のこの状態だ。 執拗な責めは、大河から欲しがらせるためのもの。とはいえ、理解したからと言って、どうすることもできない。 ぞくぞくと腰が疼く。雪虎が見下ろす先で、大河の身体が悶えた。 「トラさん…っ」 もうどうしようもない、どうにかしてくれる相手を、降参するように繰り返し呼べば、 「こっち見な」 雪虎の促す声に、大河は彼を見上げた。 と、雪虎の手が。 彼自身のジッパーを下ろすところだった。 そこではじめて。 大河は、気付く。 下着から顔を出した雪虎自身も、痛いくらい張り詰めている。 とたん、そこから目が離せなくなった。 どうしてか湧き上がった唾液を、大河がごくりと喉を鳴らして呑み込めば、雪虎の唇が一瞬、笑みの弧を描いた。すぐ、真顔になって、 「これで、な」 勃起した自身の陰茎を握り、告げる雪虎の息も、微かに弾んでいた。 「お前の中の、気持ちいいところを、さぁ」 濡れたそれに器用にゴムをかぶせながら、雪虎は煽るように笑う。 「思い切り突いてやるから、―――――楽しめよ?」 一瞬、何を言われたか大河には理解できなかった。 大河の下腹部を濡らしているのと同じ潤滑剤を、ゴムをかぶせた自身にも塗りたくった雪虎が、身を乗り出したところで、 「…え」 彼が何をするつもりかを悟った。 「ま、待ってくださ…っ」 青ざめ、鈍い動きなりに、身体が逃げを打つ。そんなのもう、遊びの域を超えていた。 思うなり、違う、と大河は自身の中で、寸前の考え方そのものを切り捨てる。 雪虎にとっては遊びなのだ。セックスそのものが。 だが大河は、遊びで誰かとつながるなど、しかも、男である自分に、同じ男のモノを挿入されるなど、想像の範疇外にあった。 こと、ここに至って、今更何を、と言われそうだが。 男同士でつながるなど、自分の身に起きることとは到底、思えず。 「無理、です、できな…っ」 喘ぐように、掠れた声で、訴えた。

ともだちにシェアしよう!