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日誌・47 そばにいるから

―――――気を、失っていたのか。 ドロリ。 中を伝ったモノが、内腿を這い落ちる感覚に、ぶるりと身が震えた。 その淫靡な刺激に、大河は覚醒する。 「あ、…?」 上半身を、誰かに抱き留められている感覚に、なんとなく手を伸ばし、相手の胸元を掴めば、 「目が覚めたか」 低い声と共に、内腿に、温かな蒸気を感じた。 気付けば、大河は雪虎にもたれかかり。 ホットタオルで身体を拭われていた。 優しい手つきと言うのに、雪虎は舌打ち。 「ちょっと加減しないでいるとすぐ意識飛ばすの、どうにかならないか?」 この物言いから考えて、…どうやら、雪虎は満足していないらしいと結論する。 ―――――性欲もそうだが、体力も化け物かと思う。 「まだ、…付き合えますよ」 負けん気で返したが、嗄れた喉が意思に反し、大河を咳込ませた。 「無茶すんな」 文句を言った端から、すぐに雪虎は呆れた顔で大河を気遣う発言をする。 「俺にここまで付き合えるだけ、御曹司はすごいよ」 言いながら、雪虎はてきぱき手を動かした。 ぼうっとしている大河の身体を清め、手近に置いてあった浴衣をまとわせる。 ホテルに備え付けられているものだろう。 大河の視線が周囲を見渡すように動いたのに、 「スーツなら、ハンガーにかけて吊っておいたから」 雪虎は言いながら、大河の腰で浴衣の帯を締める。 「明日は平日だから、仕事、あるんだろ」 大河から身を離し、ベッドから降りながら、雪虎は言う。 「始発までまだ時間はある。眠れよ」 ベッドのわきに立ち、少しだけ乱暴に大河を横たわらせた。 子供にでもするように上布団をかけてくる雪虎は、私服を着たままだ。片手には、いつもの帽子を持っている。 たまに思う。 大河は、雪虎に面倒を見てもらうことに、慣れてしまったと。 「トラさん、は」 出しにくい声で無理に言葉を紡げば、雪虎が大河を見下ろしてくる。 「これから、…どちらへ」 ああ、と雪虎は頷き、指に紙片を挟んで見せた。 「後輩と合流する。居場所を書いた紙が、ドア下の隙間に差し込んであった」 なるほど、彼らと合流するのか。 組織の頭である大河から見れば、それこそ下の者の仕事なのだが。 雪虎はそう言うものこそ、率先してやろうとする。 いつか理由を聞いた時、不敵に笑って答えたものだ。 ―――――俺にとっては分相応で、似合いの仕事だからさ。 「トラさんこそ、いつもの仕事があるのでは?」 大河から見れば。 雪虎には資質がある。 命令する側の資質だ。 あの山本浩介などが、いい例だろう。 あえて、雪虎はそこから目を逸らしているようにも思えるのだ。 貶められることに慣れて、…慣れて。 だからこそ、周囲も雪虎の本質を勘違いする。 「そっちにも間に合わせるし、きっちりこなす」 雪虎は有言実行だ。特に、こういうことは。根は真面目なのだ。 「はじめたことは最後まできちんと見届けなけりゃ、すっきりしないんだよ」 言って、雪虎は大河の顔に手を伸ばす。 温かな手が、やんわりと大河の目元を覆った。 「少し、眠れ。眠るまで、」 そこで初めて、照明が落とされる。 「そばにいるから」 その言葉は魔法のように、大河に効いて。 すぐに室内は、…静かになった。

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