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日誌・109 目に毒な奴(R18)
からかう心地で雪虎は大河の言葉の続きを奪った。
その間にも、指と掌でその感触を楽しむように両方の尻肉をじんわりとわし掴む。
それをゆっくりと左右に押し広げながら、解すように繰り返し揉みしだいた。
目の前の大河の肩が竦んだ。
身を小さくして、隠れるように俯く。
同時に、腰は次第に後ろへ突き出されてきた。
明るい中、あらわになった大河のつぼみは、誰にも侵入を許したことがないような、奇麗な色だ。
何度も雪虎自身をねじ込んでしまったのに。
最初の頃から、ただ従順に受け入れ、頬張り、懸命にしゃぶりついてくる。
いつだって、こなれた感じは一つもない。
男性器も、また。
まるで性交など未経験のようなうぶな雰囲気があった。
そんなわけがないのに。
尻を押し広げたまま、雪虎は大河の入り口をくすぐるように、人差し指の腹を何度か往復させた。
穴の上を通るたび、ちゅっと吸い上げられるような感覚がある。
誘われるまま、穴の上で、とん、とん、と指を弾ませれば、
「ん…っ」
大河が、甘く喉を鳴らした。
とたん、たまりかねたように尻が揺れる。―――――合図だ。『欲しい』という。
この動きを、身体の持ち主は自覚していないだろう。
どこかいつも、遠慮がちな動きだが、これくらいになると、大体、大河は切羽詰まってきている。
雪虎の唇に、なんとなく、人の悪い笑みが浮かんだ。
(もっと焦らして、欲しさに狂わせ、泣かせるのもいいんだけどな)
―――――今日はいつもと違う。
借りを返す。そんなつもりで、始まった行為だ。
雪虎は焦らすつもりもなく動く。
ぐ、と人差し指を入り口へ押し込んだ。
その縁にローションを塗り込めるように、くるくると回す。
大河の腰がくねった。
尻の肉が小さく震える。
少しだけ侵入し、無遠慮に遊ぶ雪虎の指を穴の縁が食いしめた。
蕾の縁を、引っかけるように出しては、また入れて、を雪虎は執拗に繰り返す。
その間、片方の手で、尻肉をもみしだくことは忘れない。
または、入り口の縁を、いたずらするように指でつまもうとしてみる。
ただ、ローションで滑ってうまくいかないから、皮膚を弾くだけに終わった。
そうやって遊ぶだけでも、大河のソコは、雪虎を十分に楽しませてくれる。
こうなると、雪虎はもう、遊びに夢中になっている。
だいたい、大河は見ているだけでも十分楽しい。眼福だ。
きれいな身体のライン。
ほどよくついた筋肉。
しみ一つない肌は、見惚れるしかない美しさだ。
服を着ていても裸でも、立ち居振る舞いの気品にもまた、ほれぼれする。
焦らすつもりはなかったが、…少しながく遊びすぎたかもしれない。
雪虎は、すん、と鼻が鳴る音を聞いた気がした。
(あ)
内心、失敗したと雪虎は思う。
(泣かせた)
いくら欲しくても、欲しいと言えない大河は、焦らしすぎれば泣き出してしまう。
良くないことに、その泣き顔もまた、雪虎の好みだった。
わざと泣かし、わざと覗き込めば、怒ったような拗ねたような顔で毎回睨み返される。
だが、今回、泣かすつもりはなかった。
つまり、顔を覗き込む気もない。
(今回は、意地悪は無し、と)
一度、指を引きぬた雪虎は、先ほど映像で見た光景を思い出した。
それだけで、大河の中へ、いっきにねじ込みたくなったけれど。
雪虎は、深く長く息を吐きだしながら、数本の指に、ローションを塗りたくる。
(昨夜、あんなデカブツ飲み込んだのなら、そう抵抗はないはず)
―――――その割にはもう、入り口はきゅうきゅうに閉ざされていたわけだが。
思いながらも、雪虎が慎重に指先を数本、入り口に添えたのを、感じ取ったか。
ひ、と大河が息を呑んだ。
「あ、トラさ…っ? いきなりは、無、理…っ」
(無理?)
真剣な声に、他人事のようにおやと思う。
昨日、あんなものを咥え込んでいながら――――――と思うなり。
(そう言えば昨夜、コイツ相当酔ってたけど、まさか)
―――――部屋に戻った後、自分がナニをしたか、覚えていないということは、あるのだろうか。
考えもしなかったことを、不意に思いついた時には。
雪虎の指が数本、ぐっと大河の中に沈んでいた。
もちろん、すこしでも抵抗が返れば、すぐ止まるつもりで。
それが。
「あ、あ…ぁ…っ!」
色のついた声を放ち、ぐうっと大河の背が、弓なりに反った。
中で、抵抗が返る―――――どころではない。
(飲み込まれる…っ)
むしろ、絡み取られる獲物になった心地だ。
入り口は、ぎゅうと閉ざされているのに、中の粘膜は、別の生き物のように蠢き、ぐいぐいと奥へ誘いこんでくる。
引っ張り込まれる感覚に、焦った雪虎は、
(待てこの)
知り尽くした、大河の内部。その、腹側にあるしこりの部分を、爪の側面で、強くこすりたてた。刹那。
「―――――ぁ、っん!」
聴けば、理性をドロドロに溶かすような、大河の声が上がって。
(食いちぎられ、そう)
そんな勢いで、中に入れた指が締め付けられた。
大河の全身が、硬直。
直後、膝から床へ崩れ落ちそうになった。
危ないところで、指を引き抜き、背後から大河の足の間へ雪虎は身体を割り込ませる。
下半身を、そうやって雪虎の身体で支えれば、大河は壁に縋るようにして、荒い息を吐きながら、額をそこに押し付けた。
放っておけば、大河は床に座り込んでいただろう。
それくらい、まだ足が震えて、滑らかな内腿が小刻みな痙攣を繰り返している。
触れられてもいない胸の肉芽は、痛そうなくらいにつんと勃起していた。
抱えるように、腹に腕を回し、片手で大河の頭を掻きまわすように撫でる。
とたん、大河の唇から、泣き出すような息がこぼれた。
見れば、大河の放ったモノが、前の壁にかかっている。
無防備な大河の尻の間に挟まれた雪虎自身は、まだ放っていない。
もういい加減挿入したいが、…ゴムなしでの行為は、どうも憚られた。
いや、したことがないわけではないが。
基本的には、中で放つことは避けたい。
顎から滴る汗をぬぐい、大河の腰に両手を添えて、雪虎は慎重に尋ねる。
「おい、一人で、立てるか?」
「…あ、―――――っは、い」
お互いの状態を探り合いながら動いた時、大河の入り口を、雪虎の陰茎が不意にこすり上げた。
「んぅ…っ」
びくり、と形のいい尻が跳ねるのは、かなり誘惑的な光景だったが、雪虎はかろうじで堪える。
懸命に言い聞かせた。
コレは生身じゃない。
芸術品。
絵に描かれた餅。
なんて目に毒な奴だろう、思って、雪虎は長いため息をついた。
「やっぱりお前、ちゃんと湯船に浸かってから出てこい。俺は先に出る。…転ぶなよ」
腰を抱き寄せ、姫君でも扱うように、手を持ち上げる。
まだ息の整わない大河を残していくのは気がかりだったが、一緒にいては最後までせずにはすむまい。
覚束ない大河の身体を、湯船の中までエスコートして、壁にかかったモノを湯で流す。
「それじゃ、あとでな」
軽く頭を撫で、タオルを回収した雪虎は、脱衣所へ出た。
そこで気付く。
(しまった。勢いで入ったから、寝間着出してないぞ)
幸い、脱衣所の鏡の裏に、バスタオルやフェイスタオルはたくさんあった。
簡単に身体を拭ったバスタオルを腰に巻いて、雪虎は室内へ戻る。
人の出入りに反応するのだろう、とたん、明かりがついた。
眩しい気分で細めた目の端に。
「…」
人影が、映った。
それは、ベランダの外にいたような気がする。
御子柴家の者と近くで生活していると、そういう事態に慣れてくる。
さすがに、性的興奮は一瞬で掻き消えた。
平坦な気持ちで思い出す。
(…そう言えば、カーテン開けっ放しだったな)
人影はすぐに消えた。
が、消えると同時に、何か、恐ろし気な声が聴こえる。
―――――おそらく。
外にいた相手は、雪虎の醜悪さにノックアウトされたのだ。
こういう場合は、自分の体質に感謝してしまう。
だが、雪虎は不機嫌になった。顔をしかめる。
「ひとの義弟に何しようとしてくれてんだよ」
複数の犬が吠える獰猛な声を聴きながら、窓を開けて覗き込むような真似はせず、雪虎はしっかりカーテンを閉めた。
基本的に、この屋敷のセキュリティならしっかりしている。
今、獰猛な声を上げている犬たちは、御子柴にとっては、可愛い飼い犬たちだ。
御子柴の魅了の力は、動物にも有効なのか、彼らは動物たちから無垢な好意を寄せられる。
幸か不幸か、おかしくなるのは人間だけだ。
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