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side Butler 2
細腰には補正用の布を巻いて、胸にも詰め物を。
髪を結い上げ、派手ではないシンプルなバレッタでまとめ上げる。
ベージュのストッキングに通勤に相応しいスーツ。
不自然にならないように、けれど元がわからないようにしっかりと化粧。
ネイルも会社勤めでもおかしくないものを。
それから、くどくないような香水を。
仕上げに目尻に黒子を描き足す。
これで完璧、木村ユイカの出来上がり。
ふんふんと姿見の前でくるりと回ってチェックして、勤め先の会社へと出社する。
ぼっちゃんは自分の執事が何気に同じ会社に勤めていると……知らない。
と、言うか頓着してないんだろう。
我ながらうまく化けている。
「おはようございます」
カードをかざして経営企画部署の扉を潜り挨拶をする。相変わらず、ちょっと控えるような人物がおはようございますと返してくれた。
「三船くん、おはよう。旅行どうだった?」
あえてそう聞いてやったのは、困る顔が見たいから ではなく、ぼっちゃんを振った腹いせ。
貴方が袖にしたのは、風見財閥の将来を背負って立つ人なのですよと、言ってやればその顔はどう歪むのか……
逃した魚は大きすぎたと、悔しがる顔を見たいとも思う、きっと素敵な表情で私をゾクゾクとさせてくれるのでしょう。
「あ、あの すみません、中止になって。 お土産、言われてたのに 」
ここでわざとらしく「なんで⁉︎」と騒ぎ立ててやるのも一興なのだけれど、チリッと首筋に殺気を感じて肩を竦めた。
アレで隠しているつもりだし、コレなのに気付かないみたいだし。
三船を掻っ攫った後、何か起こるかと思ったけれど肩透かしだった。
駅に行くとわざわざ教えて焚きつけたと言うのに、結果が追いかけて引き止めるだけとは面白味のない。
まぁ……ぼっちゃんの可愛い顔が見れたから良かったのだけれど。
そんなだから未だにその役職止まりなんですよ?佐伯部長さん。
貴方の義父殿はもう少し豪胆で、風見の御曹司に気づかれていましたよ?
もっとも、社会勉強をさせる気はなかったようですが。
「あ、あの 本当、すみませんでした!」
「残念、今度の楽しみにしておくわね」
にっこり笑って言ってやると、眉を八の字にしてちょっと困り顔をする。
説明のしようがないのだろうけれど。
ふ と、つい笑いが出るのは、コトが上手く行ったから。
『ごめんね、なんかコンサートと重なったらしくって、 その辺りのホテルいっぱいだったの』
『え あの、 仕方ないです』
『いつもなら二つ部屋を取るんだけど。佐伯部長と一部屋使ってね』
ナニが起こるとか、そんな期待は込めたつもりではなかったけれど、その後漂う雰囲気の違いに気付かないほど、目は節穴ではないつもりで。
あんなにしれっと他の男に行くのならば、どちらにせよぼっちゃんには相応しくなかったと言うことだ。
それでいい、中途半端なろくでなしに捕まってしまっては、ぼっちゃんの前途ある未来がダメになりますから。
そう、あの方の前途には何も影を落としてはならないのです。
『セックスしよう』
『他の皆はもう経験済みで、俺だけだって言われて恥ずかしかった!』
『ちょっとやっとけば仲間外れにもされないし、木村なら黙っていてくれるだろ?』
『木村以外にしたい奴もいないし!』
『俺、木村しか頼れないよ!お願い!』
『セックスさせて!』
例えそれが自身であっても。
あの嘆願を子供の戯言と流すには、私自身が子供だったのです。
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