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01
目を覚ますと、隣にあったはずの塊が温もりも残さずいなくなっていた。
むくりと起き上がって、ぼへっと意味なく宙を見つめる。
遮光カーテンの隙間から光が漏れているので、世間はすっかり朝らしい。
秋に差し掛かった朝の空気は生ぬるい。広いベッドと物のない寝室は、季節問わず変化なし。つまんねーよな。
もそもそとシーツの上を這いずってスマホをタッチすると、画面の時刻は十時を少し過ぎたところだった。
んん、と背伸びをする。
ボキボキと骨が鳴って気持ちがいい。
セックスをした次の日の朝はまだ気だるさが残っていて、スッキリとは言いがたい有り様の目覚めだ。
それでもぐう、と腹の虫が鳴いたため、面倒がる自分を無理やりどこかへ押しやり、パジャマがわりの黒のTシャツとグレーのスウェットのまま俺はしぶしぶ寝室を出た。
昨日、晩飯も食ってないかんね。
めんどいけど、空腹で動くのだるいのはマジ勘弁。人とロボって似てるよな?
リビングへ繋がるドアを開けると、食欲をくすぐるいいにおいを感じ、次いでキッチンにぎこちない動きを見せる黒エプロンの背中が見えた。
まぁいつも通り。
身体がだるいだろうに俺より早く起きて毎回かかさずああしてる、バカなやつ。
でもつまらない寝室よりは愉快だ。
俺は口元に薄い三日月を浮かべ、その背中にのっしりと容赦なくのしかかってやった。
「っ……!」
「ショーゴぉ、俺今日目玉焼きの気分」
鉄パンでウィンナーを転がしていたショーゴは、俺がのしかかると一瞬ビクッと体を跳ねさせる。
犯人が俺だとわかると、目元を桃色にしてほんのり緩めた。
「ぁ……おはよう、咲。パンはどうする?」
「食パン。生ね。サンドイッチの切れ端の耳んとこがいーなぁ……目玉焼きの黄身はガチガチに焼いて。はじっこガリガリしてな?」
「あぁ、わかった」
難解な朝食のリクエストをすると、こくりと頷いて口元を緩ませる。
ショーゴは料理が上手い。
だから俺は強いたりしないが、赴くままにリクエストをするのだ。
断ってもいいのに、ショーゴがその首を横に振ったことはまだない。
「ショーゴちゃん。イイコっすね」
「イッ……う、む……っん……」
イイコのショーゴを褒めてやろうと首をゴキリと嫌な音を鳴らしながらむりくり自分のほうへ向けて、その唇を塞いでやった。
舌は挿れずにちゅうっと吸いつくだけ。
全然気持ちくないやつだけど、俺もうたりーし。腹減ったから力がでないようあんぱんまん。ぼくをたすけて。
それだけをやって満足した俺は、さっさと顔を洗いに洗面所へ向かう。
背後のショーゴは首をいわしただろーに、嬉しそうに目元を手で覆ってにやついていた。
ほんと、相変わらず理解不能だわ。
俺ってクソ野郎にクズ野郎を合わせて気まぐれと破壊衝動で和えたような反吐の和え物なんだけど。イイの? 頭ダイジョウブ?
バッシャバッシャと顔を洗い、薄い髭を剃りつつショーゴの頭を憐れむ。
あのエプロンだって、俺が一度似合ってンじゃんと褒めたから毎度律儀に着けているのだ。
ショーゴはいつも、俺の一言に振り回されている。心底カワイソー。笑えるぜ。
「今日もバッチリかわいいね。サキちゃん」
鏡に映る笑った自分にピースしてから、リビングへと戻った。笑えねー。あはは。
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