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02
リビングに戻ると、テーブルにはショーゴお手製の朝食がきちんと並べられていた。
黒胡椒が利いたベーコンとグリーンピースが入ったオニオンスープに、皮がパリパリのウィンナー。リクエスト通り両面押し焼いてガリガリの目玉焼きと、焼いたトマトにブロッコリー。
わざわざ俺がサンドイッチの耳、と言ったから自分のはレタスハムサンドを作り、俺の皿にお望みの耳の部分が乗っている。
やり。ハムとレタスの切れ端も乗ってる。これがなかったら切れ端じゃない。わかってんね、ショーゴ。
微糖のコーヒーが俺は好き。
添えられたカップの中身の砂糖加減のベストを、こいつはなぜか知っている。
あぁ、素晴らしき朝ご飯。
世界広しといえども、ヤった翌朝面倒なリクエストに忠実な朝ごはんを作ってくれるセフレは、きっとショーゴぐらいだろう。
幾人かいる身体のオトモダチを思い浮かべるが、ショーゴが一番俺好みの飯を提供する。
それは俺の興味を引きたい一心でショーゴが身につけた使いどころのないスキルだが、それに俺が気づくことは、たぶん一生ないのだ。
俺にはそうする理由が思いつかないし、俺はそうしないから、仕方ない。
今日は休日。
意味なくテレビをぼーっと見ながら、食パンの耳をもそもそかじる。
生の食パンが好きだ。
パサパサとした食感がいい。
生っても生地の状態じゃねーよ?
ちゃんと焼いたヤツ。焼いてるけど、トーストにしてないヤツ。
な、あれってなにパン?
んーだる。生焼けパンでいいや。
「あ、俺今日出るから。好きな時に帰っていーよ。鍵開けっぱでいーし」
そういえば、と脈絡なく今日の予定を告げると、向かい側の席でサンドイッチをハムスターみたいにちまちま食ってたショーゴが「……あぁ」と情けなくしょげながら返事をした。
図体ばっかしでかいくせに、どうも女々しい男だ。こいつは。
どうしてそんな反応をするのか不思議に思って机に肘をつきトマトをフォークで遊ばせながら、ショーゴを眺める。
「なに、俺がでかけんのやなの? なんで?」
「い、や……大丈夫だ。咲は、咲の好きなことをしていてくれ」
「ちげーし。俺そんなん聞いてねーじゃん。なんでって聞いてんの。なんで?」
小首を傾げてなおもじっと見つめ続けると、ショーゴは狼狽しておろおろと視線をさ迷わせる。
嫌かどうかじゃない。嫌だってのは知ってっから、そんなの聞いてねーし。
俺はその理由が知りたいのだ。ただ不思議だから。
なのに検討違いの言い訳を述べる。
ショーゴはやっぱりバカだ。
人の気持ちを理論的にしか理解できない俺は、情報から基づく可能性と多くの人に当然当てはまる事象がある場合でしか、微細な感情は推察できないというのに。
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