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03
「咲、怒った、のか? 悪い……違うんだ。俺のものだなんて、思っていない。すまない、咲」
「あれ? 俺怒ってねえよ? わっかんねーのなぁ、みんな。俺ってそんな怒ってるように見えんのかなぁ。地味にショックだわ」
「や、その……咲は怒っても態度に出ないから、勘違いだな。違うならいいんだ。すまない、本当に」
「謝んなし。はぁ……まーいーや。ショーゴが底抜けにバカってことはわかったわ」
「ん……ん……」
言うこと言うこと否定されて俺にバカにされても、ほんとにキレられても面倒だからか、ショーゴは返事に迷って控えめに頷くだけだった。
それを興味なく見てから、俺に遊ばれてぐたぐたのトマトを口へ放り込んで咀嚼する。
俺は感情の変化が表に出にくい。
いっつも素面と変わらない。
自覚あるけど、別にどうでもよくね?
怒ってよーが、悲しんでよーが、俺の態度は特に変化なし。俺はずっと薄ら笑いを浮かべているだけ。
なのに、周りはよく怒らないで、と勘違いをする。
いやいやめんどくせーから。
あんまほうぼうの人に言われるから、八割方ツッコまなくなった。
勝手に怒らせといていいよ。困るのそっちだかんね。バッカじゃねぇの。
ショーゴがしょげても俺は気にせず、またテレビをぼーっと見る。テレビのニュースで誘拐犯が捕まったとかどうのこうの。
誘拐か。監禁しかしたことねーな。
今度やろっかな。
そんなことを考えていた俺は本気でちっとも気にしてねえのに、ショーゴはやってしまったとばかりに俺をちらちら見てばかり。
ほらな。
困るのは自分だけだぜ。
「ぁ……咲、今日は、どこにでかけるんだ?」
「ん? ハルに服見てもらって、夜はぶらっとロストーク行く。新作味見させてもらう」
おそるおそる話を振ってきたショーゴにんーと考えてから今日の予定を教えてやると、ショーゴはそうか、と当たり障りない返事をした。
ちなみに、ハルは俺の健全な友人。
ロストークはよく行くバーだ。
「ショーゴもどっかいけば?」
「そうだな。俺も友人とでかけるとしよう」
「そうしな。オマエいろんなやつに誘われてるくせにあんまノってねぇから、予約いっぱいなんじゃね?」
「時間がある時に連絡する、と言っていたら、約束が溜まってしまって……」
「仕事忙しいんすね。くく」
「むぐ、……あぁ」
話の途中でフォークに突き刺したウィンナーをショーゴの口の中へ突っ込んでやる。食うの飽きた。
ショーゴは働き者。
俺は自分の資産を投資にぶちこんで、利ざやの半分は上掛けせずに金を得ている。
資産がデカいのでそれで十分。
それほど割合が大きいわけじゃないが無視はできない額を突っ込む株主を、あちこちでやっている。分散ね。
そしてそれらの投資は俺専属のディーラー的な男に運用を一任しているので、別口からも大きなバックがつく。そこの詳細は知らね。アイツが勝手に増やしてくるんだよ。
投資家というにはお粗末すぎるやり方の俺は、ただの甘ったれた若人に違いない。
あとは、世間一般よりだいぶ多めの親からの送金が毎月ある。
プラス、俺が暮らすゴミ箱は一括購入されたもの。生活費の他にかかるのは管理費等くらいで、家賃は発生しない。
もともとあまり金を使わないので、あくせく働かなくとも、俺は毎日食うに困らず生活しているわけだ。
で、そんな俺とは違い、働き者のショーゴは立派なサラリーマン。
それも高給取りだ。
残業もするし、繁忙期は休日出勤もする。せっかく大金稼いでも使う時間がない現代社会人の典型だろう。
なのにたまたま投資した会社が波にのって大企業になり、たまたま生まれた家が金持ちだった俺は、親に与えられたマンションで一人自堕落な毎日を送っている。
世の中の不公平を感じるところだ。
ショーゴは俺に理不尽な怒りを感じてもいいな。納得してやるよ。どうとも反応はしねぇけど。
世の中の不公平なら、俺は確実に恵まれたほうの不公平である。
ショーゴも、タツキも、キョースケも、アヤヒサも、みんなキレイでかわいくて愉快な、恵まれないほうの不公平だろう。
イイよねぇ。すげーキレイなチョウチョをさ、標本にするじゃん。
だからコイツらも、標本にしたらきっとすげーキレイなんだろうなぁ。
「したら、俺は潰れたクジャクヤママユかにゃー……」
あーヤママユになったらエーミールにキスしてやろう。舌を入れて、蜜を味わうように吸ってやる。
そんなボケをかましつつ、テレビの画面を眺めながらあくびをかみ殺した。
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