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04(side翔瑚)
俺の口にウィンナーを突っ込んで、息吹 咲野 ──咲 は、またテレビに視線をやってしまった。
それが寂しくて、咲いわく女々しい表情になってしまう。
また咲の領域の外に出されてしまった。
咲の領域は極端に狭い。
もしかしたらないのかもしれない。
人がみんな他人の侵入をいやがる自宅でさえ、いつも鍵は開けっぱなし。部屋のオートロックなんて設定しない。誰でも入ることができる。
咲は誰でも入れていいとコンシェルジュに伝えているのだ。
このマンションがセキュリティを売りにしたマンションの高層階でなければ、何度空き巣に入られていたことだろう。
通帳も印鑑も、むき出しで飾り棚に入れられている。咲にとって、金もこの部屋も大事なものじゃないのだ。
ずっと咲を想って、わかったことがこれだった。
咲のパーソナリティスペースは、彼の視界の中。それも、興味があるものじゃないといけない。
だけど、重度の気分屋である咲の興味の行き先が、俺はわからない。
咲のことが完全にわかる人間に、俺は今まで出会ったことがない。
だってわかるということは、壊れているということだから。
壊れた彼を完全に理解できるのは、同じ壊れたクズだけなのだろう。
咲の相手の中で、俺はたぶん特に少しもわかってやれてないんだろうな。いつも怒らせてばかりだ。
俺は咲に関しては、咲が好きだということだけしか、嘘偽りなくそうだと確信できることがない。
咲の今の興味は、目下あの代わり映えしないニュース番組に注がれている。
興味を持たれていない俺は少しぬるくなったスープに口をつけながら、叱られた犬のようにしょげかえって咲を見つめるしかない。
寝起きで目付きの悪い切れ長の瞳。
左に二つ、右に五つ空いたピアスの穴には、気まぐれにピアスがつけられる。すっと一筋通った鼻梁。
触れると指通りのいい白に近い白金色をしたミディアムウルフの髪。肌の白い咲に、その髪はよく似合っていた。
履き古したスウェットにくたびれたグレーのTシャツ姿だが、咲はとてもキレイな男だ。
その美しさは確かに男のそれだが、それでも咲はキレイだ。
男臭くはないけれど、百八十という高身長もあるからか、中性的な美人ではなくハッキリとした美形だと思う。
いつからか、俺はそんな咲がどうしようもなく愛しくてたまらないのだ。
──なのに。俺が何度愛を謳っても、どうしたって咲は愛情というものを信じてはくれなかった。
当然のように全て冗談にされてしまう。
彼の中に、真実だと信じる選択肢がない。
本当に、心の底から渇望するほどに愛しているのに、この燃えたぎる愛を受け取ってもらえない。
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