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15(side春木)※微

「はは、犬みてー」 「ぁ……っん、ぉ前の犬、はぁ……っいいな、それ……わんわん……はっ、ん……」 「いぬのおとうさん、わんわん。はっ、じゃあ俺は子犬かぁ……ここは犬小屋? なにそれ。ウケる」 「いいよ。お前が犬なら、俺も犬になる……っ首輪もリードも、おそろいだろ……?」  だって、親友だから。  ハッ。笑えるな。キレイな言葉だぜ。  本性は咲の身体を、声を、体臭を、体温を、全身の細胞で感じながら浅ましく自分を慰める最低の親友。クソみてぇな友情。  ヌチュ、ヌチュ、とはしたない音を立てて高まる熱に溺れてしまう。  興奮から咲の肌に証を残したくて歯を立てそうになり、慌ててぐっと我慢した。  だめなんだ。  野山 春木。咲の親友。  唯一の付き合いの長い友人。体の関係のない、気兼ねない友人。ハル。  ハルは、咲に恋したりしないから。  バレてはいけない。  絶対に、バレてはいけない。  俺のこの気持ちは、欲望は、愛情は、執着は、存在してはいけないものだから。  あぁ、ズルい、ズルい、ズルい!   俺も咲に触れたい。  俺も咲に抱かれたい。  俺も咲に求められたい。  咲が俺で感じて、俺を穿って、俺に注いで、その瞬間は、咲の感覚は俺でいっぱいなんだろ? 俺しかいないんだろ?  それはなんて幸せなんだ。  うらやましい。あぁ憎らしい。  だから俺は、咲の親父も、母親も、咲に近づく女も、男も、咲のセフレも、みんな、みんな、大嫌いだ。  俺だけの咲でいてくれ。  咲だけの俺でいさせてくれ。 「さ、き……イク、イ、ク……」 「ふ。おとうさん、なんか前より……かわいいね」 「あ……っ」  これが俺の、十数年越しの友情(じゅんあい)なんだぜ、咲。   ◇ ◇ ◇  (side咲)  目が覚めると、眩しい朝日。  これは飲みの日の翌日恒例の光景だ。  完全にやっちまった。  だるおもな体をむくりと起こすと案の定、俺のベッドはリビングのソファーである。ちょー気持ち悪い。あとでシャワーだなこれ。  ぱさりと落ちた毛布は、大方ハルが掛けたのだろう。  そのハルを探すと、お盆を持ちながらキッチンからよたよたと出てきた。 「ハァルゥー。おはちゃん」 「おはさまー、咲ちゃん。寝覚めの朝ゴハンにハル様手作りのトマトリゾットいかが?」 「くるしゅうない、そこへ置け」 「何様だこのやろ」 「咲野様」  二人分のトマトリゾットをよたつきながら運んできたハルと戯れる。ちょうど起こそうとしたところだったらしい。  はいおまち、と置かれるほかほかとぅるとぅるのリゾット。  朝のすたれた胃に優しい一品だ。 「うまそ。ハルのこれは、ショーゴ抜いてんね。俺二日酔いのひと品はこれだわ」  酔わない男、ハルも、宅飲みの次の日はいつも若干死にそうな顔をする。  なんでか知らねーけど、肝臓やられてるのかも。馬鹿だねぇ。  死にそうなハルは、俺のそんななんでもない言葉に、それはそれは嬉しそうに笑う。  罪悪感の煮凝りみたいな内心に、俺は気づくことも気づこうとする気もない。  クズの親友は、最低なのだから。  第二話 了

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