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02
『また……会えますか……?』
『んー……俺を見つけられたら、な』
暇が潰れて、ライブが終わった。
なのでさっさと会場に戻ろうと踵を返した俺に、さっきの女が言った言葉がこれだ。
なんだったかねぇ。
心細くて、寂しくて、落ち着かなくて。
もう帰ってしまいたいと思ったけど、友人に悪いからと二の足を踏んで。
そんな時に知らない男たちに取り囲まれて怖くてたまらなかったが、あなたは見も知らない自分を助けて、守ってくれた。
口下手な自分に話し掛けてくれて、微笑んでくれて、優しくしてくれて、気がつくと惹かれていた。
だから、まだ離れたくない。終わりにしたくない。
真っ赤な顔で言われた話。
は、割とよく言われる話だ。
だって今すぐ暇を潰したい時はそういう慣れていない子を狙っているから仕方がない。チョロいもん。経験と勉強の賜物。
共感できなくてもシステムはわかる。
システムは利用する。
理解はしてない。わかるだけ。
そして俺は人の都合や感情なんてどうでもいいクズだが、別に誰彼構わず暴力を奮ったり犯したりするわけじゃない。
なので目を開けて夢を見ているらしい彼女には、それなりの男に見えてしまったらしい。かわいそうに。
わきまえている限り気が向けばいつでも遊んであげる。
見つけたら、というのはそういうこと。
それにあれはまだ本気じゃない。
その場限りのまやかしだろう。
吊り橋効果? ちょっと違うなー。まぁなんでもいーや。つまり気のせいな。
まやかしから覚めなくて、好きとか愛してるとか酷い罵倒を受けたら、流石に大草原不可避でポイポイしちゃうけど。
──ま、捨てても捨てても帰ってくるメリーさんみてーなイカレ野郎共もいるけどさ。
ライブの感想を口々に言い合って帰っていく人混みを眺めながら口に出さずに呟き、記憶を辿って鼻で笑った。
メリメリちゃんたちとは、俺のセフレ連中の一部のことである。
見事に男ばっかり。ってか男だからセフレ。俺の劣性遺伝子が残らない。
俺のセフレになる男は俺と真逆で、特別中身のキレイな男が多い。
うっかりひっかけた男の中でどんな扱いをしようと毎回ふるいの網の目にひっかかって残る、キレイで哀れなやつらだった。
あららぁ、かわいそうに。
人生無駄にしちゃって。ウケるわ。
そう思って、嘲ってバカにしている。
興味深くて不思議ではあるけれど、きっと一生理解できないからだ。
俺当人ですら俺の人生を暇つぶしのおもちゃとして扱っているために、俺は俺というもののことに本気ではない。
なのに他人が俺より必死に俺を求めるから、アホだよなぁ。プププ。
不思議なんだよ。やー、マジで。
一度たりとも俺を好きになってとか、恋してとか、言ったことないんだけど。俺には熱がないからそーゆー熱い気持ちはわかんないわ、ククク。
俺にどうしてほしいのかね、あいつら。
口に出して明確に言ってくれたらちゃぁんと従ってやんよ? 気が向けば。誰かの命令に従順になってみるのも、悪くないかもしんねーもんな。暇だから。
ま、俺はその本気の熱を信じてねーけど。
だってさ。
ゴミが大好きなんて言うやつ、意味わかんねぇじゃん。理解できねーだろ。コンクリにへばりつくガム是が非でも拾うってカンジだぜ。
なんだろ。奇をてらったか思い込みかすりこみか願掛けか。
なんにせよ頭おかしいわけじゃん。
狂ったやつの言い分を誰が本気にするわけ?
俺は俺に、価値を見出してないのよ。
本気で。
一縷の迷いなく。
だから必然、俺を好きなやつのことは理解できない。趣味が合わねー。バイニャン。
俺は将来、人生に飽きたらゴミ回収車のあの回転するプレス機の中に入ってみたいと思ってんだからね。
〝息吹 咲野 という人間は他人の人生を汚染するクズだ〟
俺の中の不文律。
俺を純粋に愛しているらしいキレイで透き通った宝石みたいなアイツ等には、一生理解できねぇんだろーなあ。こういう気持ち。
自分を嫌いとかそんなんじゃなくてさ。
自分に一切興味がない。
無価値という気持ち。
特に理由はないけど、という理由で、本気で脳の本能をねじ伏せて、パラシュートのないスカイダイビングができる。
それが俺なんだ。そういうこと。
ま、明日の自分の思考は知らねーけど。てへぺろ。やべ、これ死語かな。
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