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04
「咲! 高級クラブのVIP抑えてるぜ。とりあ飲むゥ?」
「さっき飲んだからやだぁ。腹減ってねー。なんかおもしれーことねぇの?」
「なァにィ。普通に遊ぶなら、ボーリング? カラオケ? ダーツ? ビリヤード? そうか夜のお店でもアリだし、宛なしドライブしながら決めてもいいなァ〜」
「ボーリングは一昨日、カラオケは四日前オールで。ダーツとビリヤードは昨日やった。夜の店はちょこちょこ関係者に誘われるからいい。ドライブしたら寝る。他ぁ」
「エェェ、オレどれも誘われてねェ……つかオレのライブ、面白くなかったのかよォ?」
「ってか聞いてたァ?」と不満顔で尋問されて、ニマンと悪びれずに笑い返す。
「聞いてねーかも」
俺の返事を受け取ったタツキはがっくりと肩を落とし、拗ね由来の寂しさアピールするように俺に抱きついて、グリグリと額を押し付けた。
ダル絡みしてんの? ウケる。
だってタツキの歌聞くのに、ライブってノイズ多すぎじゃん。歌だけでいいのにジャカジャカ鳴らしてさ。
「咲のニオイと、違うニオイがする。ヤッたのかよォ。オレの歌よりセックスゥ? オレら今月のランキングナンバーワンとったトップアーティストだぜ、贅沢モノめ」
抱きつきながらスンスンとニオイを嗅いでいたタツキが、唇を尖らせて抗議した。
あは、俺がどこでなにをしようと、俺の勝手なんだけどね。
タツキは子どもっぽい。すーぐ俺も一緒に行くとか、俺もしたいとか、なにかとワガママを言う。構ってほしがってまとわりつくのだ。
「イヤン、バレた? お前の歌はいつでも聞けるしノイズうぜぇし、暇だったんだって。な」
「ンなことシテるからあんなゴミ虫共に集られるンだぜ? アイツらすーぐ見た目イイヤツに目ェ付けてマワすジャンキーってオレいた時から有名だったんだから。それとも咲は、クソ野郎どもにボコられて犯されたかったワケェ? ワザと誘ったのかよ。その暇つぶしは悪趣味過ぎ」
「んー? なに、タツキって変わってんね。まぁそれならそれもいんじゃね、たまには。されたことねーけど。ウフフ」
「よくねェ! ツマンネェ! そんなのされたいならオレがヤルし。咲は自覚ねェの! オマエすぐ悪ガキっぽいのに好かれてるんだぜッ? わけわかんねェ恨みも買うしッ!」
「変なの。結構キレてんじゃん」
思うとおりに返事をしただけなのにグチグチと忌々しげに説教をされて、つい笑ってしまった。
俺にとっては終わった話だが、タツキの中ではまだ終わっていないようだ。
女とヤるのはいつものことなのに、変なタツキ。その程度のことで目くじら立てるなんて、タツキも暇なのかねぇ。
腑に落ちずに軽く流すと、タツキは必死になって俺の無自覚と無防備と軽率さを説いた。
これはどういう心境? 心配? 独占? んー、わかんね。
タツキの様子があまりに必死だから、一応は理解しようと思案してみる。
毎回考えてはみているのだ。
ただ毎回、考えた結果やっぱり理解できないだけで。持病なんだよな。うふふ。
変態にナンパされたから?
俺が誰に輪姦されようがしようが、小さいことは気にしないって知ってるはずなのに、今日はやたら食い下がってくる。
「咲の暇つぶしの仕方がイカレてっからキレるんだろォ! センス皆無だしィ。美人局と遊んで返り討ちとか、前科あンだぜ」
「そ? あったっけ」
「あった。女抱いて金やるフリして場所変えて、男拷問した。そんで男はトラウマインポになったし、女は咲じゃねェとダメになってストーカーされた。咲の知り合いが揉み消したって」
「ふーん。忘れたなぁ」
「すぐ忘れる。咲はなんでも、節操ねェ。その気がノったらヤベェやつとヤベェ遊びするトコのが、変」
ギュウッ、と縫い止めるように、体に抱きつく腕の力を強くされた。
どうやらタツキは俺に、恐ろしく長い人生という時間を快感なしでつまらなく過ごせと言っているらしい。
それも俺には理解できず、理解できないので首を傾げる。
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