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 なぁ、こんな悲劇があるのかね?  カワイソウなタツキ。カワイソウな太陽。  俺がハッピーエンドにしてやるよ。  俺だってハッピーエンドにできるわけ。うふふ。  あぁ、傑作だ。  涙する太陽が胸ぐらを掴む手をそっと解かせて、殊更優しくそれをなでる。  優しい声。優しい言い方。  こうかね。んん。 「俺は構わねーよ? 解放? してやる。もうタツキに会わない。金輪際接触し」 「咲ッ!」  俺の言葉が言い終わるかどうかというギリギリのタイミングで、振り切るように、滅多に聞かないタツキの真剣な絶叫が俺たちの間を切り裂いた。  あは。黙れって合図しといたのに、我慢できない早漏のタツキちゃん。  なんで? バカだからかなぁ、それだ。  だけどタツキは知っているから、吠えたのかもしれない。流石にセフレを切るの惜しくなったのかね。  俺、完全に捨てたら二度と興味ねぇの。  だからそんな餓鬼みてぇな顔してんのか。 「タツキ、解放だよ。スマホ出せ。俺の連絡先消してあげる」 「やだ、やだ、やだッ、いやだ……ッさき、なんでそんなこと言うんだよォ……ッ嫌だ、オレは、俺は、おれは……ッ!」  トン、と太陽を突き放すと、入れ替わりのようにフワリと飛び込むタツキが俺の体を掴んで縋りついてきた。  瞳孔は開きっぱなし。ボタボタと涙を流して中毒患者のようにガタガタと震えながら、同じことを繰り返す。  イカれたレコーダーと化したタツキに、俺ははぁ、とため息を吐いた。 「もーワガママだなぁお前ら。バイバイしても死ぬわけじゃない。俺と出会う前のタツキに戻るだけだろ? そん時みてぇに生きてけばいーじゃん。幸せにさぁ」 「嫌だァっ、アっ無理、無理ィ……元のオレって、オレってナニっ? ナニ? そんなん、お、思い出せねェ……っ咲がい、いねぇと、生きられない、捨てないでくれ……捨てないでェ……っ! 捨てな、ぁ、ハッ、ヒッ、ヒッ……ッ……」 「アハッ、息できてねぇじゃん。おもしれえなぁタツキ、キモイ。キモかわ」  なにがどうしてそんなことになっているのかはちっともわからないけれど、タツキは俺がいないと生きられないらしい。  うーん意味不明。今時機械があれば寝てても生きられんのに、なに言ってんだろ。  息止めてみ? と言ってみると、タツキは必死になって両手で口元を覆い呼吸を止めようともがいていたが、しゃくりあげて過呼吸を起こす身体は楽にならない。  閉じない口から涎垂れ流して、肺をヒクヒク痙攣させるタツキ。  足がガクガク笑ってる。  マジで息できねぇんだ。不思議。  残念だわ。うまくいかねぇな。せっかく俺が一肌脱ごうとしたのに。  カワイソウなタツキを、ちゃんと愛してくれているカワイソウな太陽に譲って、カマセ犬は去る。  そんな幸せハッピーエンドをお届けっちしてやるって、頑張ったのに。 「ハッ、ハッ……ぅ、やだ、嫌だ……捨てない、で……フッ……捨てないでくれ、咲……っお願いだから、俺を捨てないでくれ……さきぃ……っ」 「って言っても、こーするのがオマエのシアワセなんだって。わかる? 今のオマエは不幸なの。俺とバイバイするとハッピーになんの。オマエの大事な仲間が言ってたじゃん」 「あ、ぁ……ぁ……?」  泣きじゃくってパニックになりながらも過呼吸を潰して俺を離すまいと抱きついていたタツキが、俺の言葉を受けて振り返り、虚ろな目で太陽を見た。  死にかけのタツキに伸ばそうとして止めた、行き場のない太陽の手。  こっちだって、相当死にかけた顔をしている。写真撮って晒したいわ。  タツキにとどめを刺したのは、俺だ。  太陽を見つけて死んだはずのゾンビのタツキが、みるみるうちに表情をなくしていった。無表情で、涙だけを流すタツキ。

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