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07

 思い出すことをそうそうに放棄したが、ちょうど月が明るくなって、太陽の姿が月明かりに照らされた。  金色のサラサラとした髪。眼力のある吊り目。線の細い身体。色白で若いジェンダーレスな雰囲気。俺より小さな背だ。握りつぶせそう。ってのは嘘。大げさ。  照らし出された姿を眺めると、それがSPACEのギターであることを理解した。  俺、ちゃんと覚えてんね。すげぇ。  太陽はタツキから目を離して、俺をキツく睨みつけながらこちらに近づいてくる。今にも俺を刺し殺しそうな鋭い眼光だ。 「またコイツ? みんな待ってる。打ち上げ行こうよ、月」 「あー今日は行かねェ。オレ金出すから、みんなだけで行ってきてちょ。オレ忙しい」 「……なんで?」 「咲と楽しいコトすんのォ。ネ? イイコだから、太陽はみんなと楽しんできなァ」  へらへらと嬉しげに笑って、タツキはのらりくらりと定まらない口調で太陽の誘いを断った。  有無を言わせずポケットから折りたたみの財布を取り出して、そこから諭吉の束を引き抜き、太陽に押しつけるタツキ。  ま、そーなるなぁ。  タツキはメンバーをタツキなりに大事にしているけど、俺との用事より優先したことはない。  それが俺がこいつらにゴキブリより嫌われている理由だけど。  ドラムの宇宙(そら)には、前に思いっきりグリグリと足を踏まれたことがある。離れる背中に近くにあったテキーラぶっかけてやったけどな。実はなんとなく投げてみただけね。  俺を嫌う太陽はタツキに札を差し出され、震え上がった。 「っ!」 「……太陽ォ?」  太陽は親の敵でも見るように俺を睨みつけて、差し出された万札をバシッ! とキツく振り払った。  あちゃー、ギターにも喧嘩売られるわけか。血気盛んだね。ありがち。くそつまんね。  手を叩かれたタツキは少し狼狽するが、睨みつけられたところで俺に変化はないので、いつもみたいに笑ってあはは、と明るく声を出してやる。  しかし俺が笑うと、太陽の顔色が怒りで赤く染まった。  あれ、激おこじゃね? 逆効果っすか。なんでだろうね。 「お前ッ、お前みたいなクズが月を振り回すなッ! 真面目に付き合う気もないくせに、月を自分のものみたいに扱うなッ!」 「なんで? 扱ってねぇよ? タツキは自由じゃん。嫌なら嫌って言えばいい」 「は、わかってるくせに……ッ!」 「や、わかんねって。俺はやめていいって言ってんの。縛らない俺の感情や対応に変化を求めるとか、おかしくね?」 「おかしいのはお前だろこのイカレゴミクズ野郎ッ!」  ドンッ、と胸を強く殴られ、そのまま胸ぐらをギュッと掴み、握られる。 「あ? イテェよ、チビ」  実は痛くないけど、か弱いアピールをしておいた。太陽、弱ぇー。なんにも響かない。  タツキが止めようとするのを目で制止する俺は、楽しくって仕方がなくて更にニマンと笑うだけだ。 「月はお前と消えた次の日、いつも目が真っ赤だッ! お前の前じゃ、もう月は月じゃない……ッ! お前と出会う前は、クールで勝手でなに考えてんのかわかんなかったけど、もっと、穏やかに笑ってたんだッ!」 「へぇ」 「傷つけるなら、僕に月をくれ! 受け入れる気がないなら、真剣じゃないなら、悲しませることしかできないなら、もう解放してくれ……ッ!」  真摯な叫び、というやつだ。  太陽は瞬き一つでこぼれ落ちそうなほど瞳を潤ませて、タツキを想って俺に噛みついた。  こいつはタツキに恋をしているのだ。  俺の、やり方がわからない、まっとうな愛ってやつで。  でも、その愛すら見えていない。  自分の隣にいる、守っているはずのタツキが、血の気の引いた真っ白な顔で俺を見ていることを。

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