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 だってねぇ、タツキは俺といるのが楽しいって言ったろ?  じゃあ俺も楽しませてもらわないと。フェアに行こう。  壁に追い詰めたまま顔を近づけると、タツキの頬に少し朱がさした。  口元は笑っている。  しかし目は怯えている。泣きそうだ。死にそうだ。かわいそうに。  でもコイツは変態だからなぁ。 「ここのトイレに清掃用のホースあったと思うんだよね。あれ突っ込んでタツキの中スッキリさせてやんよ。嬉しいだろ?」 「アッ、嬉しいぜェ……で、でも、オレ……壊れるのチョット、困る……カモ……?」 「ダイジョーブダイジョーブ。俺したことあるけど、人のケツって本気出して拡張したら全然拳入るかんね。ローションと角度大事だけど。指先丸めて、奥のトコこちょこちょしてあげちゃう。な? 楽しそうじゃん?」 「ウ、ん……ンンー、ン……」  左手でタツキの顎をすくい、すりすりと親指で誘うように頬をなでる。  頬を染めて熱に浮かされた表情のまま、タツキは提案を呑むかどうか、悩んでいるのだろう。  おーう迷ってる迷ってる。  かわいいなぁ、タツキ。馬鹿で、愚かだ。考えてることがわかる。なんとなーく。  でもそこは変態さんたる所以。タツキは俺に逆らえずに壊れていく自分が気持ちいい、無自覚のドMなのだ。  だから、結局。 「タツキ」  俺が逆に甘えたような声を出して首を傾げると、タツキは頬に添えられた俺の手に自分の手を重ねて、にへらと笑う。 「……ウン、イイゼィ」  やっぱり、できたフレンドちゃんだ。  綺麗な生き物が愚かな選択をする時、俺はかわいげというものを感じる。  月明かりに照らされるイイコのタツキへ無邪気に笑い返して、そのまま唇を重ねた。  チュッと音を立ててキスをして、何度か触れるだけのキスを繰り返す。  それから上唇を吸って、舌を入れる。  タツキの唇は、厚めで吸い付きがイイ。  今日はピアスが着いてないから弄りやすくて、上唇、下唇と何度も甘噛みして、潤いを増して粘り合う唇同士を啜った。 「ふ……ん、ンン……」 「ン、あいあい。おしまい」 「っァ……っ」  くっついていた身体を離してデコピンすると、タツキは物足りなさそうに眉をひそめて濡れた唇を震わせる。  俺のキスに応えてより深く舌を絡めて夢中になり始めたバカを、これからって具合な時に解放した。  続きは後でな。  ここでしてもいーけど、フィストしない代わりに首絞めさせてちょ。 「月、なにやってんの」  けれどその気になったタツキを連れて、中に戻ろうかと思った時、外に出るため通ってきた裏口のドアの前から、俺たち以外の声がした。  男の声だが、少年っぽい。  冷たいような剣のある声だ。よく見ると、タツキと同じような格好をした中性的な顔立ちの男が立っている。  声をかけられたタツキは、邪魔をされたからか少し低い声で素っ気なく応答した。 「ア? 太陽(たいよう)かよ」  タツキに太陽と呼ばれた男は、少しだけ哀しそうに目を伏せる。  太陽。ン~? 知らねぇ名前。  覚えようとしなければ記憶しない。

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