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『言ってたイタリアン、駅前の白い店? 晩メシなに食うか当日決めるって言ったじゃん。暇ならそこ行こ』
『寝てんの?』
『ショーゴ』
というメッセージを送ってから四時間。ふーむまさかの既読なし。返信当然なし。
俺、到着して三時間ちょい。
真冬の一人待ち。
ガヤガヤと通り過ぎて行く人にも視線をやらずスマホをトットッとタップする。
落ち物ゲーで遊びつつ暇を潰しているが、流石に寒さで指の筋肉が固まってつまらなくなってきた。
その間も何通かメッセージを送ってみたが、全てなしのつぶて。
『もう予定埋めたの? 来ねーの? 俺もう店の前来てんだけど、どっち』
『全消し。三桁ステージクリア』
『ホットコーヒー、冷めたからキャッチのおにーさんにあげた。ショーゴのだけど遅いからいいよな』
別に約束をしていたわけではないし、俺がここで待っている理由も律儀な気遣い由来ではない。
けれど店の前のベンチに座りながら、俺は膝に頬杖をついて思案した。
「なぁんかおかしー」
ショーゴにしては見るのが遅すぎる。
今日は仕事が早く終わる花の金曜日だから、俺を映画と食事に誘ったはずだ。
もともと予定はなかった。新たに用事を作ったならメッセージは返すだろう。アレはマメな男だからさ。
死んだかね? あらあら。
なにかトラブルに巻き込まれて死んでいるのか、単なるドタキャンなのか、俺と飯を食うのが死ぬほど嫌なのか。
俺の予想では最後だねぇ。
それはいいけど俺のこのいよいよなココのパスタの口をどうしてくれんだろ、ショーゴのやつ。死ぬならそう言えさ。
「ねぇねぇ、こんな時間に一人でなにしてるの? 寒いでしょ〜。私たちと暖かいところに行かない? 女二人じゃ夜道怖いし」
「ほらお店閉まってるじゃん。お腹減ったの? なら一緒に食べよっ。美味しいパスタの出るバーがあるんだ〜」
「んー? 美人なお姉さんたちに誘われたら行きたいけど俺は忠犬ハチ公だからなー」
「えー捨てわんこなら私が拾ったげる!」
「ね! 君カッコイイから大歓迎っ」
「ごめんね? わんわん」
「残念〜」
「バイバイ!」
「くぅーん。ばいばーい」
ふわふわと脳内をショーゴとパスタが乱舞していて気が向かないので、好奇心旺盛な女の子たちには適当に手を振った。
まーずっとこんなところで店の壁にもたれ掛かってるやつがいたら、何度か声もかけられる。不審だし。
ちなみに特に怒っても悲しんでもない。
気が向いてるから待ってるだけだからな。気が逸れたら帰るよ。
今はまだ気が向いていた。
けれど指が動かなくなってきたので、スマホをポケットにしまう。
電話も何度かしたけど出ない。ほんとに死んだ? マジかウケる。
冷たくなった筋肉をギシギシと伸ばしながらよっこらせと立ち上がり、閉店を迎えて色を落とした店から離れた。
「仕方ねぇなぁ、ショーゴちゃんは」
感覚のなくなった手足を動かして向かうは、ショーゴのマンション。
死体くんを迎えに行っちゃうサキくんってばやーさしーね? にゃはは。
のんびりと歩いてショーゴのマンションを目指す。冬の夜は寒い? かもしれねぇけど俺は感覚が鈍い。あんまり気にしないぜ。
一月も終わる頃。
あぁ、年が明けて、ショーゴには一度も会ってないのか。
俺はそういうものに興味がないから、世間の色合いが変化しても特になんとも思わない。年が明けるなら閉じるのか。閉じたどこかに置き去りなんだろう。
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