54 / 306

10

 ん? 死体め、蘇ったか。ゾンビじゃん。よーしヘッドショット決めてやんぜ。  動く死体に期待たっぷり。  右手を拳銃の形に準備してワクワクとドアが開くのを待つ俺は、ガチャ、とドアが開くと同時にゾンビ目掛けて発砲した。 「はいはぁ〜い……」 「バーン」 「ん?」  歩く死体にとどめを刺そう、と開いたドアに向かって指先から架空の弾丸を打ち出すと、現れたのは見覚えのない男だった。  とてもショーゴには見えない男だ。  少し寝癖のついた茶色の髪がうさぎのようで、顔立ちや髪型は地味めのホストっぽい。うさホスト。なかなかイケメンだがショーゴらしくはない。 「ショーゴ、整形したの? 俺は前のほうがどっちかゆーと好みだぜ。これはちとイメチェン激しすぎ」 「待て待てこんな時間に訪ねてきて大ボケかますなし! 別人でしょどう見ても!」 「あ? そなの? じゃあそこから出てくんなよややこしいじゃん」 「な、なんで怒られてんのオレ……てか誰なのお前……」  別人かよ。おもんね。  じゃーやっぱショーゴは死体だ。  うさホストはパーカーにジーンズ姿で頭に手をやり、心做しかゲッソリ顔で俺を見る。いやその言葉そっくりそのまま返すけど。アホだろコイツ。  チラリと横目で伺うが、表札もルームナンバーもショーゴの名前でショーゴの部屋だ。パラレルワールドかしら。  うーん、と首を傾げる。 「ショーゴは?」 「リーダーは寝てるよ。つかよいこはみんな寝てるに決まってんだろバカちん。時間見やがれ。そして名乗りやがれ」 「まだ寝るには早いっしょ、ボク。俺は息吹 咲野。ショーゴは漢字いっこ取ってサキって呼ぶけど。まぁ呼ぶのに不便だからあるのが名前なんで、呼び方はなんでもいいよ」 「んっ? ってことは、お前が咲……?」  ニンマリ笑って愛想よく名乗ったのに、うさホストは俺の名前を聞いて目をまん丸と驚いた。はは、失礼。  んな珍しい名前じゃないでしょ。  (さき)は女っぽいかもしんねーけど、咲野(さくや)はどっちでもイケんだろーが。改名しちゃうゾ。する気ねぇけど。  とはいえ名前はさておき、俺はうさホストに興味がない。  どうでもいいから早く中に入れてほしい。死体ではなかったショーゴを夢から引きずり出す仕事がまだ残っているのだ。  しかし玄関口を封鎖するうさホストは、へ〜ほ〜と俺を観察している。  コテン、とニンマリスマイルのまま首を傾げてみても、うさホストはジロジロ不躾に俺を見定める遊びをやめない。  寒いって。あんま感じねぇけど。  てか見ててもつまんねーっしょ。俺変形とかしないし血の気失せてるし。 「ふぅん……聞いてんぜ。ずいぶんな鬼畜ヤローだって。腐れジャイアニズムで他人を振り回す王様気取りは楽しいか? ドクズの咲くん」 「ワーオ有名なの? 俺。ってか立てんの飽きたから中入んね? 呑気に死んでるショーゴの目玉回収してぇし」 「ダメダメ、諦めてちょ。リーダー……翔瑚さんは俺と付き合ってるから」  ……。へぇ。  無礼なうさホストは、初めて俺の興味を引くことを言った。

ともだちにシェアしよう!