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01(side蛇月)
音待 蛇月。俺の名前だ。
ノリのいい変態で束縛なんて一切しない。気ままでフリーダムな素敵なバンドマン。
そんな俺にも心底から崇拝して人生供物に捧げたいほど、愛する人がいる。
息吹 咲野。
俺の万倍気ままで自由なそれはそれは美しいガラクタの名前だ。
自由な咲は自由に日々を有象無象と過ごし、俺じゃない人間たちと夜を生きる。
まぁ、忠実ニャンコのオレはもちろん束縛なんて一切しない男サ。
咲は気持ちいいことが好きで、言葉も行動も一秒先すら保証のない、笑顔で周囲に無茶振りする魔物だからな。
それを止めることなんてできやしない。惜しいものがなにもない人だから。
それに自由な咲はとても魅力的だ。
建前や暗黙のルールなんてものを、紙切れみたいに丸めて捨てる。
人々が物怖じしてしまうことも平然とこなす。空気を読めないのではなく読まない。無神経ではなく無礼者。
破滅を抱きしめる自暴自棄で刹那的な生き方は、誰でもを魅了するのだ。
だから俺は、咲に面倒くさいことを言ったりしない。
そうさ。
咲を縛る権利なんて俺にはネェんだ。
例えば、俺のライブで俺の歌を聞いていないだとか。
例えば、俺の電話を無視して真っ赤な髪の友人と遊んでいるだとか。
例えば、俺の目の前で別の女を抱いた上に誘ってくるだとか。
例えば、俺を抱きながらつまらないと欠伸をして鬼畜なプレイを始めるだとか。
例えば、俺より他の奴らのほうが、ずっと優しくされているんじゃないか、だとか。
例えば。──例えば。
全国ライブの円盤発売記念打ち上げで来ていた上品臭いお高い飲み屋で、ばったり出会った咲の横に、俺の知らないハデな女がいただとか。
それらを責める権利なんてカケラももっていないんだ。俺は。
「ハ……? 咲? え、誰、その女……なんでそこいるワケ? オレ、いねぇのに」
ないんだってよ。
「え? なに? ちょっと、咲野……」
「軽率に名前呼んでんじゃねぇよ死ね」
「はぁ……っ!?」
「無理。マジ無理。イヤイヤ、マジウゼェ。マジどっか行け。つか気安く触んな気持ち悪ィな、あ゛〜無理。無理無理無理。無理っつかヤダって。ヤダ。無理」
「なにっ、てか痛いしっ」
だから。ないんだってば。なぁ。
「ちょっともう、あんた誰!? 咲野っ、この人誰!?」
「もーだからソレ呼ぶなよっつってんだケド!? なんで? なんで! 咲、なんで! コレ、なに? 誰だよ、なァ! お前不快。潰すぞ、ア?」
ないんだって言ってんだろうが。
わかっているはずなのに、メンバーやスタッフに勧められるがまま久しぶりにハメを外して泥酔しきった脳みそは役に立たたず、ミスリードばかりを叩き出す。
飲み会は二時間が経過していた。
俺はトイレに行って済ましたところで、部屋に戻る帰り道。
そこで見つけたのが、今来たばかりなんだろう咲と知らない女の二人組。
デート? なに、その女は誰だ? 俺とは今週デートしてくれてないのに? 隣を、許してンの? 意味わかんねェ。意味、ワカンネェッ!
「アぁッ!? 咲ッ! この女、ナニ!? オレとデートしてくんねェのに、なんでソレはいいンだ!? コレは、お前のナンなわけ!?」
カッ、と頭に血が上る。
ずるい、うらやましい。俺も咲の隣にいたいのに、なんで、なんで!
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